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●難聴に対する対応方法について

浜松医科大学 耳鼻咽喉科 岩崎 聡


 網膜色素変性症に感音難聴を合併する疾患の中で、代表的なものをUsher(アッシャー)症候群と呼びます。外国の報告では人口10万人に対し、3.6〜4.4人とありますが、1978年の本邦の報告では人口10万人に対し0.6人と報告されています。本邦の報告で頻度が少ない理由として、1978年当時のUsher(アッシャー)症候群は、臨床症状から3つのタイプに別けられることを以前の会報にも書きましたが、その内のタイプ1、すなわち幼少時から高度な難聴がみられ、10歳ごろから網膜色素変性症を認めるタイプをUsher(アッシャー)症候群としていたと思われます。小児先天性高度難聴の3〜6%がUsher(アッシャー)症候群、との報告があるくらいです。実際には思春期から成人で難聴を自覚するタイプもあるので、Usher(アッシャー)症候群の本邦における頻度はもっと高いと思われます。網膜色素変性症の約30%に難聴を伴うとも言われていますが、本邦では不明です。そのため、この度日本網膜色素変性症協会の協力を得て、難聴の頻度・現状の全国アンケート調査をさせて頂きました。まだ、毎日私の所へ返信が届いている状況なので、もうしばらく待ってからまとめるつもりでおります。みなさまのご協力で集まった資料ですので、ぜひ結果がでましたらお知らせしたいと考えています。

 難聴に対する対応には現在、高度難聴に対しては人工内耳、軽度・中等度難聴に対しては補聴器になります。今回は人工内耳と補聴器について書こうと思います。日本耳鼻咽喉科学会が提唱している人工内耳の適応基準は、下記のようになっています。

成人の場合
1.平均聴力が90dB以上
2.補聴器使用しても言葉の聞き取りが悪い
3.本人と家族の同意が得られている

小児の場合
1.2歳以上
2.平均聴力が100dB以上
3.補聴器を使用しても言語発達が悪い
4.家族の同意が得られている

以上のようになってはいますが、難聴の期間や小児では人工内耳を受ける年齢によって聞き取れるレベルは異なってくるため、人工内耳を受けることによりどのような聞こえが獲得できるかを、人工内耳専門医からよく聞くことが重要となります。視覚障害を伴う場合は必ずしも日本耳鼻咽喉科学会が提唱している人工内耳の適応基準には当てはまらない事があります。人工内耳は手術のあと、コンピュータ上で刺激の調整や言葉の聞き取り訓練(リハビリテーション)が必要となります。そのためには視覚情報が要求されます。したがって、視覚障害が悪化するまえに人工内耳を早めに受ける必要がある場合もあります。人工内耳は手術で耳の後ろの皮膚の下から内耳(中耳と神経の間にあり、音の信号を電気の信号に変える所)へ電極と刺激する装置を埋め込みます。小さく、薄いもので外からみてもわかりません。手術時間は3時間程度で1〜2週間の入院ですみます。浜松医大では5泊6日の入院です。保険が適応されているので、経済的負担もありません。術後2週間程で、補聴器のような形をしたスピーチプロセッサーを耳に掛け、人工内耳の調整をした上で、初めて聞こえるようになります。日本では2000人程の方がすでに受けており、人工内耳を使用しているUsher(アッシャー)症候群の方もおられます。

 次に補聴器に関して、使用上のポイントをお話します。初めて補聴器を使用する場合、まずは片耳から始めましょう。基本的には良く聞こえている方の耳か、もしくは利き耳側が良いでしょう。はじめから両耳装用を補聴器業者から勧められるケースがありますが、よく注意する必要があります。しかし、小児の場合は例外です。補聴器を使用するか決める基準は、まず本人が難聴により多少でも不便を感じているかどうかがポイントになります。その他聴力検査で40dB以上の難聴や語音検査で低下が認められるケースも検討する必要があります。補聴器を選択するにあたり、補聴器の形(挿耳型、耳掛け型、箱型)だけで選ぶ方がいます。補聴器の形で聞こえ方が異なるわけではありません。重要なことは補聴器内部の調整です。  その調整がうまくいっているかどうかを補聴器適合検査で調べます。この補聴器適合検査は認定された耳鼻科施設でしかできませんので、補聴器を使用している方はどの耳鼻科施設で補聴器適合検査ができるか知っておく必要があるでしょう。またその際「自分の声が響く」、「食器の音が響く」、「大きな音が響く」等の苦情をできるだけ具体的に訴える方が調整しやすいので、気にせずに言ってください。進行性の難聴の場合はデジタル補聴器でこまめに調整し、耳への負担を最小限にする事も重要と考えます。

 難聴も視覚障害同様、大変な障害です。見た目ではわかってもらえないため、聞き取れなくても笑ってごまかしたり、適当に返事をしてしまう事が多くあります。若い方でも使用しやすい補聴器の開発と補聴器の使用を受け入れる社会になっていくことが今後必要であると考え、私も日々努力しているつもりでいます。ぜひみなさまのご意見を聞かせていただければと考えていますので、今後とも宜しくお願い申し上げます。


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