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●JRPSアンケート調査による網膜色素変性症と難聴・耳鳴の頻度


−調査結果第1報告−

浜松医科大学耳鼻咽喉科  岩崎 聡

2002年に日本網膜色素変性症協会の協力を得て、所属する3200名全員に送付される機関誌に質問事項を記載した返信用葉書を同封し、アンケート調査を実施しました。大変遅れて申し訳御座いませんが、その結果をみなさんにご報告いたします。最終的に834名のアンケート用紙が返却され(26.1%の回収率)、そのうち828名(25.9%)が眼科医によって網膜色素変性症と診断されていました。除外した6名は黄班変性症等、他の眼疾患と診断されていました。今回は828名を対象(男性385名、女性418名、不明25名)として検討しました。なお、紙面の都合上数回に分けて報告させて頂こうと思います。今回は第1報告です。

 アンケートは自覚症状に基づいた内容で、以下の10項目からなる質問を記載しました。
1.網膜色素変性症と眼科で診断されていますか?
2.何歳ごろから視覚障害を自覚しましたか?
3.難聴を自覚することがありますか?
4.「ある」と答えた方はいつ頃から自覚しましたか?
5.難聴が徐々に進行していると感じていますか?
6.耳鼻科に受診して聴力検査を受けた事がありますか?
7.現在補聴器を持っていますか?
8.耳鳴りを感じていますか?
9.耳鳴りを感じている方はいつ頃から感じていますか?
10.これまでにめまいやふらつきを経験することがありましたか?
返答欄には「はい」、「いいえ」または年齢の記載としました。今回のアンケート調査では感音難聴と網膜色素変性症を伴う様々な疾患の鑑別や感音難聴・伝音難聴の区別はできないため、網膜色素変性症における難聴のおおまかな現状を把握する内容となります。

結果

網膜色素変性症と診断されている828名のうち、難聴、耳鳴り、めまいの自覚者はそれぞれ、29.5%(n=244)、30.4%(n=252)、40.5%(n=335)でありました。蝸牛症状(難聴または耳鳴)の自覚者は43.0%(n=356)でした。視覚症状自覚開始年齢は平均31.7±3.0歳であり、0歳から77歳まで幅がみられ、蝸牛症状自覚開始平均年齢は39.2±1.6歳でした。蝸牛症状のある356名のうち難聴の進行の自覚、耳鳴りの自覚、めまいの自覚のある方は、それぞれ、44.9%、70.8%と56.5%にみられ、63.5%が聴力検査を受けた既往がありました。また難聴を自覚している244名中補聴器を使用している者は54名(22.1%)だけでした。

 Usher症候群のタイプII、タイプIIIでは難聴が自覚される時は軽度−中等度難聴であり、進行性の有無が鑑別のポイントとなります。今回の調査では、蝸牛症状自覚者の44.9%に難聴の進行を自覚しており、各年齢層においても約40%前後にみられました。この結果から思春期以降に難聴が発症するタイプIIIは割合多く存在する可能性が推測されます。これまでの報告ではUsher症候群の表現型によるタイプ分類の割合にはタイプIで25%から70%、タイプIIで12%から75%、タイプIIIは0%から40%まで国により大きなばらつきがみられています。アッシャー症候群の生物学的分類が最近進み、タイプIで7個の遺伝子座と5個の遺伝子、タイプIIで3個の遺伝子座と2個の遺伝子、タイプIII では各1個の遺伝子座、遺伝子が報告されていますが、その症状には多様性がみられるようです。平衡機能障害によるめまい・ふらつきの自覚は40%にみられ、難聴(29.5%)と耳鳴り(30.4%)よりも頻度が多く認められました。アンケート調査のため今回めまい・ふらつきがあると答えた方は必ずしも前庭機能障害による平衡障害だけではなく、視覚障害によるものや中枢障害によって生じる平衡障害もすべて含まれる可能性もあります。今後みなさまの協力を得て、平衡機能検査を含めた臨床検査による検討と症状と遺伝子解析による遺伝子型との関連を調査していくことで、より正確な調査と病態解明につながると考えます。宜しくお願い申し上げます。

今回の調査では蝸牛症状を自覚し、耳鼻科を受診して聴力検査を受けた方は6割程度でした。10歳以下で蝸牛症状を自覚した方は91.3%と高い頻度で聴力検査を受けていました。補聴器の装用率は、蝸牛症状自覚者の15.2%、難聴自覚者に限ると22.1%だけが補聴器を使用していましたが、10歳以下では60.9%と極端に高くなります。逆に、タイプIIやタイプIIIは難聴を自覚しても軽度から中等度であれば補聴器を使用せず、耳鼻科を受診しない傾向が今回の結果から推測されました。Usher症候群を主とした網膜色素変性症に難聴を伴う疾患は必ずしも耳鼻科を受診しない場合があると考えらます。したがって、今後網膜色素変性症に対し、耳鼻科医と眼科医との連携・協力が何よりも重要であると思われました。次回は網膜色素変性症に難聴を伴う人口10万人あたりの頻度に関する検討結果をご報告いたします。


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