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●続、RPと聴覚障害を伴う症候群について

匿名希望


 前編から、1年と数ヶ月(約3ヶ月)の春秋を経てリサーチしてきましたが本稿が一区切りの最終回となります。アッシャー症候群以外に網膜色素変性症(以下、RP)と聴覚障害が伴う疾患が幾つか存在すると言われていましたが、アクチュアルなディビジョンと疑問を調査すべく、可能性がある疾患の中から最終的に9つの疾患の文献を調べました。疾患名は既にリポートした通りです。

筆者がリサーチした9つの疾患の中でなんらかの眼疾患を伴うまたは伴うことがあるもの、症状の中に眼所見の記載があったもの・・・
・アルストレム症候群(網膜ジストロフィ、色素性網膜症、RPなどの報告がある。)
・アルポート症候群(水晶体疾患(白内障、円錐水晶体など)、網膜の異常の報告もある。)
・キーンズ・セイアー(カーンズ・セイヤ)症候群(RP)
・コケーン症候群((進歩的な)色素性網膜症)
・ハーラー症候群(角膜混濁が共通してみられ、緑内障の報告もある。)
・バルデー・ビードル症候群(網膜ジストロフィ、RP、色素性網膜症などの報告がある。)
・ラッド症候群(RP*注1)
・レフサム病(RP)
次になんらかの聴覚障害、難聴の記載のあったもの・・・
・アルストレム症候群(感音性難聴だが神経性難聴の報告もある。)
・アルポート症候群(感音性難聴だが難聴を伴わないタイプもある。)
・キーンズ・セイアー症候群(聴覚異常および聴力損失という表現だが報告例はある。)
・コケーン症候群(感音性難聴)
・ハーラー症候群((慢性的な)聴力損失)
・ハンター症候群(難聴。重症型のMPS II Aは、進歩的な聴力損失を伴う。)
・レフサム病(幾つかに神経性難聴がみられる。)
そのほか、留意する点・・・
アルストレム症候群(Alstrom syndrome)は、報告されたケースは医学文献において少なく、また、世界的にみても認められた患者数は極めて少ない。(23、48、266の医学的文献数および19人、266人の患者数。数字の違いは文献により異なるため。)アルストレム症候群については、1997年に肝硬変を持っていたAlstrom症候群を持つ2人の日本の患者のリポートを見つけたという記述のある海外の文献もあることからわが国でも患者の存在が認められている可能性がある。また、早老症として知られるコケーン症候群(Cockayne's syndrome)は、進歩的な色素性網膜症と感音性難聴(訳注:sensorineural hearing loss)が臨床症状の中に含まれているが、この疾患の頻度は世界的にまれである。以上の疾患については、キーンズ・セイアー症候群とラッド症候群以外は遺伝子座が(すべてではないが)同定されている。

この稿を書くにあたり、筆者の在住する県内において、もっとも大きな書店に赴き、わが国のステータスクオを簡単ではありますが、リサーチしました。そこに疾患名があったか正確に記載されていたか否か以前に筆者が思ったのは、眼科学の書籍セクタの全体の医学書に占めるプロポーションが少ない印象を受けました。棚ひとつ分もなかったと思います。これだと恐らく、都内の有数のブックストアにおいても眼科学部門の書籍コーナーは同じような状況ではないでしょうか。その中にあって、筆者がリサーチした疾患および症候群名は(筆者の既存の書籍以外に)部分的に記載されているものも、もちろんありましたが記載されている記述が非常に乏しいというのが率直な感想です。(多くを紹介する書籍の形態上やむを得ないのですが)かといって、すそ野が狭いというつもりはありません。RPが良い例です。特定の視覚障害者団体にあっては非常にクオリティの高い情報が得られるのは皆さんもご存知の通りです。あるところにはあるのだと思います。しかしながら遺伝性の疾患においては、一部の疾患を除いて、わが国では一般の患者があるいは人が(書籍とかWebからの)情報を入手する土壌が皆無といっていいほど存在しない面があるのも否定できないと思います。(あっても最新の情報が反映されていない。誤ったレクチャーも多い。そもそも現状では存在していないオールドな疾患を紹介しているケースも多い。)

 各症候群については再度、文献をコンファームしました。理由は文献の世界は常に更新されているのと見逃し、勘違いがあると困るからです。(それでもあると思いますが)さて、RPに聴覚障害を伴う疾患(症候群)はあるかどうかですが、人には情報の受容に対して、それぞれオピニオンがあると思うのでこの稿を読んでいただき、トータル的に皆さんが判断してください。(書いた筆者にも主観、バイアスは入っていると思いますが)個人的なオピニオンではありますが、ある(または、ない)と言うからには客観的なデータを示さなければ明示的な論拠を示さなければ説得力に欠けると思います。実のところ、言い切るだけの客観的なデータが不足していて、分子遺伝学的にまだまだ未知の多くの勉強する部分があるのが現状だと思います。

スペリング・・・
・アルストレム症候群(Alstrom syndrome)
・アルポート症候群(Alport's syndrome)
・キーンズ・セイアー症候群(Kearns-Sayre syndrome)
・コケーン症候群(Cockayne's syndrome)
・ハーラー症候群(Hurler syndrome)
・ハンター症候群(Hunter syndrome) ・バルデー・ビードル症候群(Bardet-Biedl syndrome=BBS) ・ラッド症候群(Rud's syndrome) ・レフサム病(Refsum's disease) 補足 ・色素性網膜症(pigmentary retinopathy)は、網膜色素変性症(Retinitis Pigmentosa(RP)、pigmentary degeneration of retina)、色素性網膜ジストロフィ(pigmentary retinal dystrophy)などを含んだRPよりは広義語と筆者は解釈した。 ・アルポート症候群の眼疾患においては、水晶体疾患(白内障、円錐水晶体など)、網膜の異常がみられるが、難聴(全体の30〜50%)ほど頻度は多くはない。 ・ラッド症候群(*注1)については、1989年にTraupeが、称号‘ラッド症候群’が捨てられることを提案したという報告がある。(Rudのリポートの再調査から彼は、神経学的関与と魚鱗癬の両方とも明確に定義されないままであると断定した。) (2007年2月19日 作成)

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