あぁるぴぃ千葉県支部だより33号


■投稿■

★ある試み

上條 治夫(53歳、大学教員)
 私は大学の化学科で教員をしていて、視覚障害を得てまず、先達を捜しました。障害 者本人が化学の教員をしているというケースに辿り着くことはできませんでしたが、数 多くの仲立ちをしてくださった方のおかげで、盲学校で化学を教えておられる先生をは じめ、様々な方からご助言をいただき、直接化学教育に関わることのみならず、幅広い 面で貴重な情報を得ることができました。また同じ時期は視覚障害者のパソコン環境が 著しく便利になった時期ではないかと思っていて、例えば、windowsのOSが95から 98にバージョンアップされ、パソコンの画面読み上げソフトがとても使いやすくなっ たのではないでしょうか?
 さて、この文章をお読みになられる方は「化学」と言うと「理科」をまず連想される のではないかと思います。実際に中学校では「理科」と言う科目の一部に「化学」があ り、高等学校になって始めて「生物」や「物理」、「地学」と一緒に「化学」という科 目が現れます。正式に調べたわけではないのですが、視覚障害をお持ちの先生方の中で 理数系については「数学」を担当される方に比べ「理科」を担当される先生は極めて少 ないし、「理科」と言っても専門分野は「物理」であり、「化学」を専門とされる先生 はほとんど、もしかしたら全くおられないのではないでしょうか? 理由はよく判りま せんが、「化学」には化学構造式という文字では表せない図形がたくさん出てきます。 私は化学の中でも亀の甲と通称される六角形構造がたくさん出てくる有機化学を専門に しているので、化学構造式を描くことは私自身の作業環境の回復の上で欠くことのでき ない課題でした。
 多方面から頂いた情報や私自身でも僅かながら調べてみたところでは、晴眼者が書い た図を点図や立体コピーに印刷し、それを触読すれば、視覚障害者が図形の情報を得る ことができます。しかし『自分で化学構造式を書きたい』と言う点に私の強い目標を見 つけることができて以来、私はここ2〜3年、試行錯誤を繰り返し、その都度空しい 日々を過ごしていました。ところが今年の7月になってある偶然が二つ重なり、その結 果、数年来の目標だった『自分で化学構造式が書きたい』という目標に辿り着くことが できたのです。その偶然の一つ目は「触覚ディスプレイ」との出会いであり、もう一つ は「LATEX」でした。以下に端緒となった情報が書かれたURLを紹介します。
触覚ディスプレイ
http://www.kgs-jpn.co.jp/b_dv.html
LaTeX で化学構造式 --- XyMTeX の紹介
http://www.klavis.info/xym.html
 LATEXは数学や物理ではごく著名なソフト(文字や記号を書くためのソフト) で、「LATEX」の中に「XYMTEX」と呼ばれる化学構造式作成ソフトがありま す。その特徴の第1はマウスを使いません。通常の文書を書くソフトを使い、命令文 (コマンド)を入力して化学構造式に変換するというソフトです。コマンドを書き入れ た文書を保存し、ファイル上の処理で化学構造式に変換されるという仕組みです。ソフ トについての詳細な説明は私自身が門外漢であり、私自身はとにかく化学構造式さえ書 ければよかったので、ここでは詳しい説明は省略させて頂き、以下(別紙参照)にXY MTEXと触覚ディスプレイを駆使して書いた化学構造式の見本を示します。

サッカリンの合成

アスピリンの合成

 触覚ディスプレイはケージーエス株式会社製のDV−1という機種を使いました。初 めてこの機器を体験したのは4年ほど前の国際福祉機器展(東京ビッグサイト)でし た。この機器の特徴ははがきと同じ程度の大きさの触覚面があり、その触覚面に埋め込 まれている小さい凸部分がパソコンの画面と連動していて、線や図の部分だけを凸面で 表すという仕組みです。DV−1の画面の大きさを工夫すればパソコンの画面を拡大し て表示することができるので、書きたい図の詳細部分を触って確認しながら作業するこ ともできます。余談ですが、XYMTEXのプログラムはインターネットからフリー (無料)でダウンロードしましたが、DV−1ははなはだ高額であり、購入するまでに 数年かかりました。
 私の化学構造式作成のもくろみはまだ緒に就いたばかりです。上にも書いたように視 角障害を持ちつつ理科教育に励んでおられる方の中で化学を専門とする先生の数が少な い理由の一つが構造式へのアプローチのできないことに起因しているとして、私のもく ろみがそうした障壁への対策の一助となれば幸甚です。またパソコンの画面を認識でき ない人にとって触覚ディスプレイのような補助具がもっとたくさん出てきて欲しいと 思っていて、さらにはそう言う機器の利用がもっと容易にできるような環境ができてく れればよいと思っています。


★ネパール視覚障害者支援に対するお礼

視覚障害者支援センターちば 所長 高梨 憲司
 初冬の候、お変わりなくお過ごしでしょうか?
 去る9月に太田さんを通じて、ネパール視覚障害者の方々への支援のために、皆さん から拡大読書器やルーペなど、貴重な品々を寄贈いただき、誠に有難うございました。
 10月上旬にJICA(日本国際協力機構)を通じて送りましたところ、昨日にネ パールの受け入れ先である、「ネパール視覚障害者を支援する会」の、渥美より子さん (JICAのシニアボランティア)から、お礼の返事がありました。12月上旬には、 荷物が着く予定で、楽しみにしているようです。あわせて、ネパールの視覚障害者の 方々の生活の様子を綴った、ネパール通信も送られてきています。
 そもそも、ネパールへの支援の話は、私の娘から寄せられた話です。彼女は、現在イ ギリスの国立大学で発展途上国支援について学んでいますが、9月〜12月まで大学の 研修の一環としてネパール盲人協会で、リハビリや図書館業務に携わっています。
 定かなところはわかりませんが、うわさではネパールの国民の数パーセントが視覚障 害者で、その大半が白内障との事です。多くは手術可能なようですが、貧困や医療技術 のため、困難な生活を余儀なくされているようです。福祉用具も殆ど無く、私たちの ちょっとした心遣いが、彼らにとって大きな支えであり、国際貢献にもつながる事と思 います。
 現在、今回送った品々がどれだけ活用可能なのか、結果を知らせてもらう事になって います。もし、有効で今後とも必要であれば、様々な形で引き続き行っていきたいと思 いますので、皆さんの御理解とご協力をいただければ幸いです。国や人種を超えて、視 覚障害者の立場は皆同じという気持ちで、協力し合えることを願っています。
 まずはお礼まで。


★千葉盲ろう者友の会設立

市原市 石川 隆
 私が会長をしている千葉盲ろう者友の会は、盲ろう者の社会参加と自立を目指すこと を目的として、2004年11月7日(日)に正式に設立しました。盲ろう者とは、私 と同じ視覚と聴覚の両方に障害を併せ持つ人たちをいいます。
 盲ろう者は、弱視や難聴など比較的障害の軽い人から、全盲でまったく聞こえない人 まで含まれます。障害の程度は異なりますが、大きく分けると4つのタイプがありま す。
(1)全盲ろう・・・まったく見えなくて、まったく聞こえない人
(2)全盲難聴・・・まったく見えないが、少しは聞こえる人
(3)弱視ろう・・・少しは見えるが、まったく聞こえない人
(4)弱視難聴・・・少しは見えて、少しは聞こえる人
 2001年(平成13年)厚生労働省身体障害者実態調査によれば、盲ろう者は全国 で1万3000人いると推定されています。県内に重度の盲ろう者は318人いるとい われています。現在、千葉盲ろう者友の会で把握している県内の盲ろう者は15人です (非会員を含む)。
 みなさんは、盲ろう者のコミュニケーションってどんな方法があるか知っていますか ? 盲ろう者は一人一人障害の状況が違うので、コミュニケーション方法が違います。 コミュニケーション手段は主なものに、手書き文字、指文字、手話、触手話、接近手 話、点字、指点字、音声、筆談などがあります。
 点字は、ブリスタという点字タイプライタを用いた方法があります。細長い紙がブリ スタの点字タイプから出てきます。機械の左側から紙が出てくるので、盲ろう者はその 紙に打たれた点字を読みます。
 打ち手(通訳者)は聞いたものを全て打つのが基本ですが、受け取る方に合わせるこ とも必要になります。また、聞こえていなくても伝えなくてはいけない情報もありま す。例えば、遅れて誰かが来たとか、誰が手を挙げているとかです。
 盲ろう者とはどんな人たちなのか、どんな障害を持つ人たちなのかなど、一般的には あまりよく知らない人が多いと思います。盲ろう者は、通訳者やガイドヘルパーなどの 介助者なしで一人で外出することができません。またコミュニケーションをとるのが難 しく、社会参加が難しいのが現状です。盲ろう者は外出の機会が少なく、家に閉じこも りがちな生活を余儀なくされている方も少なくありません。
 同じ障害がある人の自立生活を支援するために、友の会を作ろうとした盲ろう者がい ました。しかし、2年前に交通事故に遭い、帰らぬ人となってしまいました。会をまと める人がいないので、私に会長をやってほしいといわれ、今年の4月に会長を引き受け ることになりました。
 千葉盲ろう者友の会設立準備会として長年活動していましたが、設立準備会のままで は県からの支援を受けることができない。また、盲ろう者向け通訳介助者養成講座が今 年度から始まるということで、早急に友の会を設立する必要がありました。
 友の会設立総会は、来賓の方々、会員の方々をはじめ、一般の参加者も多く来ていた だきました。参加者は総勢40名以上と聞いています。また朝日新聞の取材もありまし た。朝からあわただしくバタバタしている中を、皆さんの協力を得て議事進行がスムー ズに行われ、千葉盲ろう者友の会を設立することが出来ました。
 盲ろう者は情報が入らないため、千葉盲ろう者友の会を設立したことを知らない盲ろ う者が多くいます。健常者の人にもこういった友の会が出来たということを知ってもら い、盲ろう者の社会参加の支援をお願いしたいと考えています。現在、県と相談しなが ら、愛光の高梨さんと相談しながら、来年3月から始まる盲ろう者向け通訳介助者養成 講座の準備を進めています。
 盲ろう者が社会に出て自由に活動できるようになるには、より多くの通訳介助者が必 要です。盲ろう者の通訳介助に興味を持たれた方、また、お近くに視覚と聴覚の両方に 障害を併せ持つ方がいらっしゃいましたら、千葉盲ろう者友の会までご連絡ください。
会長 石川隆
事務局 土橋優子
TEL/FAX 047−397−5396


★アンケートの御礼と論文提出の報告

埼玉県立大学 佐藤 明日香
 こんにちは。埼玉県立大学4年次の佐藤明日香です。背が高く大きな声が特徴の学生 ボランティアです、と言えば、おわかりいただける方もいらっしゃるのではないでしょ うか?
 さて、私は卒業論文の作成にあたり、8月にアンケートを行わせていただきました。 その結果、約150名の方々からご回答をいただくことができました。本当にありがと うございました。そして、このアンケートの結果を元に「情報化と視覚障害者のイン ターフェースについて 〜アンケートの結果を元に〜」という表題で、11月30日に 論文を無事提出致しましたことをご報告させていただきます。
 アンケートの結果および論文につきましては、支部長様や幹部の方々と相談した後、 何らかの形で公開致したいと思っております。
 最後に、重ねてになりますが、本アンケートに御協力下さった方々に厚く御礼申し上 げます。また、これからもボランティアとして、皆様とお目にかかる機会があるかと思 います。その時はどうぞよろしくお願い申し上げます。


☆風の音 花の香 陽の光(かぜのおと はなのか ひのひかり)K
 千葉在住の会員KHさんの俳句集『谺』(こだま:H14.3月上梓)の中から、季節に 合わせて3句位づつご紹介して来たこのコーナーも、回を重ねて今号で12回目。お蔭様で 無事睦月から師走までの12ヶ月一年の歩を終えることが出来、ここらで一寸(チョット) 一休みをいただくことになりました。
 最終回はタイトルに因んで、“風”“花”“陽(ヒ)”の句をお届け致します。

*初夏の風百幹の竹襖(はつなつの かぜひゃっかんの たけぶすま)
 注;百幹(ヒャッカン;百の幹。沢山の木)
*遇ひし日も花野訣れも花野かな(あいしひも はなの わかれも はなのかな)
 注;遇ひし日(アイシヒ;遇った日・『遇う』は遭遇の遇の字)
   花野(ハナノ;花の咲いている秋の野辺) 訣れ(ワカレ;訣別の訣の訓読み)
*湯揉み唄より明け初める雪の宿(ゆもみうた よりあけそめる ゆきのやど)
 注:湯揉み唄(ユモミウタ:温泉の湯を揉みほぐす時に一緒に歌う歌)

 第1句:清々しい青竹の間をサーッと過ぎていく初夏(ハツナツ)の風。まさしく 「緑の風」ですね。ざわざわと木魂する竹の音が聞こえてくるようです。
 第2句:惜別の句。胸に溢れる別れの寂寥感(セキリョウカン)と共に、どこかほの 明るい透明な美しさが感じられる句です。また来る花の季節にもう遇うことはないだろ うという淋しさと共に、花がまた咲くようにいつかどこかでまた逢えるのではないか・・・ と言う幽かな希望のようなものをこの句から感じるのは私だけでしょうか。
 第3句:『冬はつとめて。雪の降りたるはいふべきにもあらず(冬は早朝。雪の降る
朝はもちろん)』と枕草子にもありますが、雪の湯治宿(トウヂヤド)の白い朝、長閑 (ノドカ)な湯揉み唄(ユモミウタ)の調べと共に射し始める冬の柔らかい陽の光(ヒ ノヒカリ)、温泉のお湯の温かさと冬の陽射しのぬくもりが、じんわり心まで暖めてく れるようです。

 KHさんの十七文字の世界の水先案内を、SI(千葉市在住、夫MIがRP)が務めさ せていただきました。最初お話を戴いた時には全くの素人の自分に務まるかどうか心許 なかったのですが、作品の素晴らしさに惹かれてここまで楽しく皆様とご一緒に旅をす ることが出来ました。
 KHさん、機会を作って下さった小出支部長、そして何よりも、“あぁるぴぃ・ち ば”読者の皆様に心から感謝申し上げます。それでは皆様次の機会までごきげんよう。 (SI)


★KHさん、SIさん、ありがとうございました

市原市 小出 佳子
 地域ネットを進める上でお電話をしたKHさんとお話がはずみ句集をいただくことと なりました。しかし、俳句について何の知識もない私は実は困惑していました。音読ボ ランティアの俳句が趣味の方に読んでいただこうかとも思いました。そうこうしている うちに別件でSIさんに御会いする機会が訪れました。「もしかしたら、お願いできる かも」と密かに願ってバックにしのばせていった句集を取り出し、SIさんに支部だよ りでの連載を快く引き受けていただいてからはや2年、今回が最終となりました。
 読者の皆さん、いかがでしたでしょうか。KHさんからは「作者の思いを的確に汲み 取って、このように読んでいただき、たいへんうれしい」とのお言葉をいただいており ます。
*八重櫻己が重みを諾へり(やえざくら おのがおもみを うべなえり)
 (2003年4月発行 支部だより22号より)
 SIさんと句集を広げ、私にもなんとも言えない思いと情景の浮かんだ思い出の一句 です。
「こんなことができたらよいなあ」との思いつきをきちんと形にしてくださったKHさ ん、SIさんに心より感謝申し上げます。ありがとうございました。


目次へ戻る次のページへ

All Rights Reserved Copyright (C) JRPS-Chiba-2003