あぁるぴぃJRPSちば会報103号


■ 特集
★網膜変性疾患に対する再生治療
理化学研究所 万代 道子

現在私たちは、加齢黄斑変性という病気に対しては網膜色素上皮の移植、網膜色素変性に対しては視細胞の移植という治療開発を進めています。網膜色素上皮、視細胞、いずれもiPS細胞から作って移植に使います。

 加齢黄斑変性は60歳以上の方に多い疾患で、年齢とともに網膜色素上皮細胞の機能がおちてきて、網膜色素上皮の下にある血管の層から本来ない血管が網膜の下まで生えだしてくる(新生血管)様な病気です。現在、新生血管を抑える様な薬(抗VEGF剤)を目の中に注射するのが一般的な治療で最も有効ですが、この治療は新生血管を抑える効果はあるのですが、薬が切れてくると再び新生血管から水が漏れてきたり出血したりして視力がさがるため、少なからぬ患者さんは、ずっと頻回に目の中に注射をし続けなければなりません。また、注射をしていても、途中でやめたり、十分な回数の注射をしないでいると、結局視力がさがってしまいます。このような、やはり注射の治療がやめられない、そして注射をしていてもじわじわ視力が下がってくる患者さんに対して、私たちは、その新生血管を取り除いて、患者さん自身の皮膚から作ったiPS細胞由来網膜色素上皮細胞の移植、というものを臨床研究として一例行いました。いわゆる自家のiPS由来網膜色素上皮シートの移植治療です。この臨床研究で、たった一例ではありますが、自分の細胞由来の移植片が免疫抑制剤なしでも拒絶されないこと、iPS細胞由来の移植片が予想外の増殖などしないことを確認しました。今術後1年以上たちますが、移植片はとても綺麗に生着(せいちゃく)し、患者さんも以前行っていた新生血管を抑える薬の眼内注射なしで、視力は低下することなく安定しています。

今回この一例の移植を行い、iPS由来網膜色素上皮細胞が実際につかえることがわかりましたので、これからは日本人に多い免疫型を持つバンクのiPS細胞を用いて、第2弾の臨床研究を計画しています。これは、同じく加齢黄斑変性の患者さんを対象に、免疫型が適合する人(日本人の2割弱)を選んで移植を行います。そして、同じ遺伝型のiPS細胞由来組織が拒絶されることなくきちんと生着するかどうかを確かめる目的の研究となります。まだ安全性試験ですので、視力的な効果など多くは望めませんが、より多くの人に適応できる一般的な治療を目指しての一歩となります。来年にはこの臨床研究が実施できるよう、現在申請手続きを行っています。移植に用いる網膜色素上皮も、細胞移植、シート移植など、病気の状態に応じてより良い選択ができるように工夫していく予定です。
また、一種類の細胞を用意してそれを多くの人に使うことができれば、コストダウンにもつながります。

網膜色素変性の患者さんには、同様に日本人に多い免疫型のiPS細胞から分化した網膜組織の移植を目標に、現在研究をすすめています。マウスのiPS細胞由来網膜組織を網膜変性マウスに移植すると、綺麗に成熟、生着し、視機能改善が得られる可能性があること、ヒトのES細胞からも同様の網膜様組織が作れることを確認しています。今後ヒトiPS細胞からの網膜組織の分化を確認し、機能を検証しています。安全性を確認した上で平成30年の申請を目指して研究をすすめています。



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