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【医療講演】

午後の医療講演会が始まるまでの2時間は3階の交流ひろばで開催されていた「福祉機器展示会」会場はたくさんの来場者で埋められ、各ブースでは展示された製品を手に取って出展業者の説明に熱心に耳を傾ける姿があちこちで見られました。
 午後1時から始まった医療講演会には世界に先駆けてiPS細胞を利用した網膜疾患の再生医療に取り組んである理化学研究所の高橋政代先生のご講演とあって、関心が高かったようで、開始時刻には会場の248席がほぼ満席となりました。


『網膜再生医療でできること できないこと』

           理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター
           プロジェクトリーダー 高橋政代 先生

我々が現在細胞移植を進めているのは視細胞と網膜色素上皮細胞です。視神経を治すことは今のところできません。
最初に取り組んだのは色素上皮細胞です。

何故なら色素上皮細胞は神経ではないので繋ぐ必要がないのです。皮膚と同じでペタンと貼ればいいので簡単に治療ができるのです。本当は色素変性症の視細胞を治したいのですが、まずは色素上皮細胞から治療研究を進めていきます。

 ES細胞から脳を作ろうとしたとき、茶色い細胞が出来たのが2000年ぐらいです。この茶色い細胞は網膜の色素上皮細胞だろうと思って調べると確かに色素上皮細胞ができており、色素上皮が悪いことで視細胞が減っていくラットをES由来の色素上皮細胞によって治療することができました。
これは見えるようにしたのではなく、視細胞が減っていくのを止めることができたのです。

この研究を発表するとアメリカでは会社を立ち上げ、猛烈なスピードで研究を進めていったのです。そして、2006年、2007年位から治験が始まるという噂が聞こえてきました。流石にアメリカは凄いなあ、悔しいなあと思っていた時にiPS細胞が開発され、拒絶反応も解決したのです。本当に嬉しく思いました。

 ES細胞で治ることも分かっているし、動物を治すところまでは出来ていました。それをiPS細胞に変えるだけなので、前臨床試験という実用化のための実験に進むことができて、世界最速でiPS細胞を活用することができるようになったのです。

対象疾患は加齢黄斑変性ですが、色素変性にも関係の深いものです。
今回の臨床研究は2年間で6人の患者さんに行う予定です。
視細胞と色素上皮細胞は持ちつ持たれつの関係で、片方が悪くなると、もう片方も悪くなります。このように2つの細胞は関係が深く、視細胞と色素上皮細胞をセットで移植しないと多くの患者さんにとっては効果が限定的となります。

でも、今回は色素上皮細胞だけ、視細胞だけの移植で効果のある患者さんを対象に計画していますので、該当する人は少なくなります。そして、次は、視細胞と色素上皮細胞をセットで移植、あるいは色素上皮細胞は視細胞に栄養を供給しているので色素変性患者さんの視細胞の減少を緩やかにするような治療も考えています。

 加齢黄斑変性症とは色素上皮の老化により、網膜の裏側に血管ができて出血したりすることで、上にのっている網膜が悪くなる病気です。この悪くなった色素上皮細胞と血管を網膜に小さな穴を開けて取り出します。そこにiPS細胞で作成した若返った色素上皮細胞を移植するという再生医療と言ってもいい治療です。

この移植に使う細胞は、患者さんの皮膚細胞に遺伝子を入れてiPS細胞を作ります。そこから色素上皮細胞を作りシートにして患者さんに移植します。これまで、10ヶ月かかります。ここでiPS細胞は同じ条件で作成しても出来不出来があり、一人の患者さんのために30人分(30ライン)のiPS細胞を作ります。そして、その中から徹底的に検査・審査をし最高品質の移植用の色素上皮細胞を作ります。
 
移植手術は通常の網膜の手術プラスシートを移植するという手術を行います。移植する色素上皮細胞のシートの品質・安全性については確信していますが、どのような手術でも危険性がゼロとはいえません。この移植手術でも、通常の眼球手術でも手術の合併症が起きる可能性はあるのです。手術による網膜剥離も僅かですが残念ながら起きているのです。このようにどの治療にも危険性は伴うのです。

勿論、安全性は重要なのですが、危険性が僅かでもあれば許さない、阻止する、というのなら日本での治療開発は益々遅れかねません。
進歩によって、そのリスクは飛躍的に低下しましたがゼロではないのです。これからも臨床試験が行われると思いますが、 何か事故が起きたとき、「やはり、危険な治療なんだ。」と言って止めてしまうのか。それとも、その事故を教訓にして更に進めていくのかということは患者さんの声が大きく影響するのです。

 今回加齢黄斑変性症の臨床研究を行いますが、まず安全性を確認しますので、対象となるのはリスクが少ない患者さんとなります。つまり、視力が低く、合併症がおこっても視力の低下巾が小さい患者さんです。そして、検査などで拘束されること・安全性の検査であることを理解された患者さんです。そして、この治療法を一緒に作り上げようとする気持ちのある患者さんです。
 
今回の臨床研究は自家移植で行うために長い時間と莫大な費用が掛かります。一人5千万円前後の費用がかかります。これでは普通の治療法とはなりえないので、拒絶反応を起こさない他人のiPS細胞を利用して他家移植すれば100万円から200万円ほどで治療が出来るのではと考えています。この治療法を5年後から10年後までには行えるようにと思っています。
 
日本は法律に関して、規制が多かったのですが、iPS細胞の力で法律があっという間に変わりました。再生医療新法というのと薬事法が改正されました。

この薬事法の中に再生医療という章ができたのは、世界で最初であり、大きな治療開発の推進になるものと思います。薬事法の改正には早期承認制度があり、世界から注目されるような素晴らしい規制緩和だと思います。

 視細胞の移植についても随分進んできました。視細胞は中枢神経の一部、脳と同じで、再生することは至難の業であり、20年前は誰も出来るとは思っていませんでした。しかし、近年急速に進歩しています。作成方法は、ES細胞から神経の細胞を作っておきます。神経の細胞をかたまりにしておいて、そこで網膜になるために必要なタンパクをお皿の中に入れてあげます。そうすると、脳から網膜が出てくるのと同じように、神経からにょきにょきと眼の組織が出てきます。

そして、緑の部分が網膜なんですが、お椀状の立体網膜ができます。断面を見ると綺麗に視細胞が並んでできています。都合の良いことに不必要な内側の細胞は死滅し、視細胞が残り、これをシート状にしてマウスに移植する実験を続けてきました。この視細胞は部分的に繋がっていることは確認できたのですが、視機能がどれだけ回復しているのかが分からないので、その検査方法を開発しなければならないのです。でも、少しは光に反応することが分かっているので臨床試験の準備を進めます。そして、10年以内に臨床試験を始める計画です。

理解して頂きたいのは、この再生治療を行っても即座に綺麗に見えることはないのです。最初の臨床試験は安全性が第一義なのですが、効果としては、加齢黄斑変性症の場合、できれば視力0.1まで回復すればと期待しています。網膜色素変性の場合はもっと低いので、対象となるのは視力0.1から更に病気が進行している患者さんで、視力0.1でも読み書きや歩行が自由にできていた方になると思います。

つまりロービジョンケアがしっかりできていた方です。このように再生治療は元通りにすることからは程遠く、ロービジョンケアとセットで効果が高められるのです。

私たちも精一杯取り組んでいるのですが、一日でも早く治療法を届けたいということから悩むときがあります。そんなとき、次のような言葉を教えていただきました。

「健全なあきらめ:変わるものを変えようとする勇気、変わらないものを受け入れる寛容さ、そしてその二つを取り違えない叡智」というものです。この言葉は病気のことだけではなく、人生のあらゆることに通じるものと思いました。再生治療が始まるまでまだまだ時間があります。  

ただただ治療を待つのではなく、生活を豊かにするためにも、自分が出来ることはしっかり取り組んでいただきたい。
このことをお願いして話を終わりたいと思います。どうも、有難うございました。



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