第一回:「網膜色素変性とはどういう病気なの?」
九州大学病院眼科 宮崎 勝徳
まず今回は、「網膜色素変性とはどういう病気なの?」です。
答えを簡単に言いますと「遺伝子の異常が原因で、光を感じる細胞が少しずつ弱ってきて、徐々に見えにくくなってくることがある病気」ということになります。
現時点で有効な治療がないため国から特定疾患という難病指定を受けています。
割合は約3,000〜8,000人に1人といわれ、全世界で150万人、単純計算で福岡県内に1,000人程度いらっしゃることになります。
では、@原因 A症状 B診断 C治療 の順に説明していきましょう。
@ 原因
「眼」が働くために重要な遺伝子に異常があって、光を感じる細胞(視細胞)の働きが悪くなり、この病気がおこります。
例えば、建物の設計図が違っていると家が建たなかったり長い間に傾いてきたりするように、眼の遺伝子という設計図が違っているとうまく物を見ることが出来なくなってくるのです。
ではなぜ、そんな異常が起こるのでしょう?
大きく分けて2つ考えられます。
一つは先祖から受け継いだもの(いわゆる遺伝です)、もう一つは自分が生まれてくる段階でおこる遺伝子のキズ(突然変異)です。
つまり、両親や先祖が原因とは限らないということです。
遺伝子のキズは誰でも平均7〜8ヶ所はあって、たまたまそれが眼にとって大事な部分だった‥という場合がある訳です。
これが心臓や脳といった生死に関わる部分であれば生まれてくることができなかった可能性もあるのです。
遺伝に関しては次回詳しくお話させていただきますね。
A 症状
一般的には20代前後での、「夕方になると急に見えにくくなる」「月明かりや街灯では歩きにくい」といった、暗いところでの見えにくさが最初の症状です。
これは他の人との比較が難しいので、気づかない方も多いようです。
それから「人や物にぶつかる」「つまずきやすい」といった、しや視野きょうさく狭窄(見える範囲が狭くなる)がおこってきます。
筒からのぞいたように、横からくるものや足もとが見えにくくなるのです。
さらに中心の見え方まで悪くなっていく方もいますが、いわゆる「失明」という光を全く感じられなくなる方が多い訳ではありません。
ただこれらの自覚症状にはかなりの個人差があります。
というのも、眼に関連する遺伝子は沢山あって、それぞれの遺伝子でその大事さが違うのです。
建物でも大黒柱の設計図が違っていると家が建ちませんが、押入れの扉が悪くてもそんなに問題にならないのと同じです。
その遺伝子がどれだけ大事かによって、若くして見えにくくなる方もいれば、一生不自由なく過ごせる方もいます。
病気の進行も個人差がありますが、一般的に非常にゆっくりで、急に見えなくなることはありません。
急に見えにくくなった場合、眼の中で別の病気(合併症)が起こっている可能性があります。なるべく早く、眼科の先生に相談してみて下さい。
B 診断
診断は比較的簡単で、上記の症状と、眼底検査で特徴的な色素沈着(これが病名の由来です)があり、網膜電図という検査で特徴的な波形を認めれば確定診断となります。
ただ典型的な眼底所見が認められない診断の難しい場合もありますし、小さいお子さんでは確定診断できない場合があります。
C 治療
今のところ有効な治療はありません。
他の病気で使われているいろいろな薬が試されていて、ビタミンAや高血圧の薬、ルテインなどは病気の進行を遅らせることができると報告されていますが、その効果は一般にわずかです。
このため世界中で新しい治療法の研究が行われていて、最近の医学の進歩から考えると近い将来有効な治療法が必ず出てくるだろうと期待しています。
今後の治療法についてはまた先のテーマとしてお話させていただく予定です。
次回のテーマは「遺伝の心配について」です。