あぁるぴぃ広島 17号


■巻頭言■

  白杖のススメ
       広島県支部幹事 福山市 茅本 勝利

 皆さん、こんにちは。お元気ですか。
広島県福山市(今年2月に合併して福山市に なりました。)の茅本 勝利(カやもと かつとし)です。
 私は家内と盲導犬のウエンズデーと田舎に暮らしています。
一番近いバス停まで2 キロメートル以上あります。
 私は網膜色素変性症で、50歳ぐらいから見えにくくなり、自動車、バイク、自転車 に乗るのも徐々に出来なくなって、親譲りの自分の足で歩くようになりました。
 自転車に乗れなくなったころに身体障害者手帳を申請しました。自分の意思で申請 をしたのですが、手帳が交付されて白杖を受け取った時は複雑な気持ちでした。
手帳 は、すぐにポケットに入れて、白杖は人に見られないように隠すようにして持って帰 りました。 
 その後しばらくの期間は、白杖を家に置いていたのですが、次第に暗い所が歩きに くくなったり、昼間でも溝や川に落ちるようになりました。道だと思って歩いている と急に1mも2mも落ちたことがあります。そのようなことがあって、白杖を思いだし て、人の気配のしない所で出して自分の意思で歩くことが出来ました。本当に嬉し かったです。
我流で使い、人の気配がしたらすぐにしまいました。自分からは障害者 手帳を持っていても、なかなか自分を障害者と認めることが出来ませんでした。知っ た人のいない所に行った時は白杖を出して練習をしました。
 夏は良いのですが、秋になってくると「つるべ落としの秋の夕暮れ」といって、仕 事が終わる午後5時を過ぎるとすぐに暗くなってしまいます。こうなると、夏には汗 をかきながらでも、ゆっくりと楽しみながら片道7kmの道を歩いて帰っていました が、秋が近づくとだんだんと歩く速さも速くなり、しまいには暗くなるのに、せき立 たれて息を切らして走るようになりました。明るいうちにどんなに辛くても走って帰 らないと、暗くなっては車の通るのを待って、テールランプの残像を追って20mか、 30m歩くと次は、スリ足をしながら、車の来るのを待っていました。こんな状態なの で、日が暮れてからの歩行には、かなりの時間がかかるようになり、 そんな時に白 杖を思いだして使うようになりました。他力本願でなくて、自分の意思でいつでも自 由に歩くことが出来るのは白杖を使って恥ずかしいということをいつの間にか乗り越 していました。
 支給してもらった杖は短くて手を伸ばしても腰を曲げて歩かないといけないほど、 短い杖で、何か、落し物でも探して歩いているようでした。それでも、白杖を使用す るようになってからは、溝や川に落ちることはなくなりました。白杖の長さは、脇の 下ぐらいが良いのではないでしょうか。へその前で手首で振って、二歩前を探ると良 いですよ。
 話は変わりますが、ある日、職場の後輩の女の子が、[茅本さん、新聞にこんな記 事が載っていたよ。]と言って小さな切り抜きを持って来てくれました。それは、佐 藤支部長が広島市で最初に行なった、JRPSの医療講演の記事でした。溺れる者、 わらをもつかむといった気持ちで、講演を聴きに行き、交流会に参加するかと聞かれ ましたが、暗くなると帰れないので参加せずに帰りました。講演を聴いて安心したと いうか、今、自分が置かれている状態の説明が詳しく、あったので安心するという か、もやもやした気持ちが取れてほっとしました。会場では多くの人が話に聞き入っ ていました。お蔭様で、みなさんの元気をリュックに背負って帰ることができたのが 昨日のように思い出されます。  家の中に閉じ込もっても一生、白杖を振って外を歩くのも一生。勇気を出して外に 出てみませんか。
多くの友達ができますよ。
 それでは皆さん、元気で、夏を過ごしてください。



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