あぁるぴぃ広島 Vol.5


■情報コーナー■

「アイムーブメント眼球運動」に関して (越後屋)

     昨年の6月からはじまった私の函館もうでもはや今回が4回目となりました。訪問 の目的は「肝臓運動」、もとい「アイムーブメント眼球運動」の訓練が目的です。牛 乳パックを使った「自分の視能力の意識化」にはじまった訓練も、目のなめらか移 動、それに連動した目標物の固視(こし)、移動も左右のみならず上下、縦横斜めと 進み、かなり的確に目標物を目の移動だけで滑らかに追従させることができるように なりました。
自覚としては、一番大きいのはむやみに物にぶつからなくなったという ことでしょうか。当然のことながら視力や視野が回復するというものではありません が、目の使い方が丁寧になり、滑らかな目の移動によって山手線の電車の中でも空席 の確認が随分早くできるようになりました。視野が狭いのですから、ただでさえ 点  から 点へのキョロキョロした目の移動では、なかなか対象物がはっきりと、しか もそれなりに早く見つけることなどはなから無理と思っていたのが、意外とちょっと した日常生活の中で感動するほど嬉しい気分になる 出来事 などで、この訓練の成 果を感じさせていただいたりしています。
 拡大読書器の活用なども大きな成果です。テーブルの動かし方も縦横斜めと現在は 縦横無尽と言っても過言ではないほど快適です。多い時では1日に実働で5〜6時間 も使ったりしていますが、俗に言う「船酔い現象」は全く感じたこともありません し、薄いグリーンの遮光眼鏡のおかげもあってか、心地よい疲れはあっても、「しば らくは使いたくない」なんて感じの疲れは微塵もありません。「読む」ほうだけでな く、「書く」ほうでも、かえって昔に書いていた文字なんかよりよっぽど拡大読書器 を使って現在書いている文字のほうがきれいだったりしています。  今回の訪問で、ご指導役の山田信也先生から、ナイツ製の6倍の単眼鏡をお借りし てきました。私なりにこの訓練をはじめた時の 目標 であった、単眼鏡の活用の訓 練にやっと到達できたとウキウキした気分です。明日から、自宅の廊下に世界大会の ハイコントラストポスターを貼って、単眼鏡のスキルアップに入ります。これが上手 にできるようになれば、6車線であろうが60車線であろうがどんな横断歩道の信号 も屁ではありません!(ちょっと大げさか)走ってくるバスの行き先掲示も確認する ことも可能になるかもしれません。
 この「アイムーブメント」を実践してみて、「もう出来ないかもしれないなぁ」と いう気持ちが、「まだまだ出来るかもしれない」という心持に変わってきたことも、 本当に大きいと強く感じてもいます。確かに「昔どおりに見ること」は今後まだしば らく難しいとは思いますが、どんなことでも「やってみる価値はある」と思えてきた のが、本当に嬉しいし、ありがたいことだなぁとも思っています。
 眼科医やケア関係者のこの「アイムーブメント」に対する評価として、「論文が出 ていないし、認知もされていない」とか、「臨床的な正式な評価がない」などという 声もまだまだ大きいようですが、今回の訓練を実際に見学し、私たち訓練を実践して いる患者の声に耳を傾けてくれた東北大学出身の先生が、驚きと感動に包まれておら れたことが印象的でもありました。前述のような私のなにげないかもしれないけど、 私にとっては感動的な日常での「視能力向上」を聞いて、またお一人理解者が増えて くれたことも成果かもしれないなぁと思います。もちろん「治療法の確立」は最大の 目標です。しかしながら、「見えない」「見難い」とあきらめているのではないか? と自問自答を繰り返していた自分が、見えない、見難いだけでなく「なんとか見えな いものか」「なんとか見たい」という気持ち。つまりは少しでも自分自身の努力など によって「QOLの向上」が図れないものだろうか?へと、この「アイムーブメン ト」を通じて少しずつではあるけれども、一歩一歩進んでこれたことにこの訓練の  真骨頂 があるのかもしれないなんてぼんやりしながら考えていた今日でした。
 現時点では、RP患者のみならずロービジョン患者でもごく少数の人しかこの訓練 はもとより、体験すら難しいのも時日です。ただ、「自分の見え方」を自身で意識化 し、人にもそれを理解してイメージしてもらうということはロービジョンケアの一つ のステップとしてとても重要なコアではないかと思いますし、入り口の部分だけな ら、多くの医療現場でも実践が不可能ではないと考えたりもしています。目の構造か らはじまって、網膜の状態や視力検査・視野検査もそれはそれで重要なデータかもし れませんが、ただ単に診察をする側、診察を受ける側という関係から、その双方が努 力することによってなしうるものが「QOLの向上」という観点において、だれもが 普通に近隣で実践していける日々が訪れる日を夢見たいとも思う2日間でした。


*アイムーブメント眼球運動(以下IMと略す)の理念とその概要

 私がIMを始めてから約1年近くが経過しようとしている。IMの根幹は、自らの 「見え方」を知り、それを自らが拡大読書器などの補助機器の使用時や日常生活にお いて最大限に生かすことにあると言えよう。加えて、自分以外の人に、その「見え 方」を具象的に伝達することによって得られる相互理解がとても重要かつ有用だと強 く実感している。
 RPをはじめとするいわゆるロービジョン患者は、意外と自らの「見え方」を具象 化できていない。IMを始める前の私も同様であった。「具象的な見え方」の説明と して以下を記す。

 @視野5°とは、60cm前方にある物体について、目を固定して凝視した場合に 明確に「見えている範囲」は直径約5cm程度の面積であることになる。
 Aまた同じ視野の場合で、見ようとする物体が近づけば見える範囲は、近づけば近 づくほど見える面積は狭くなる。つまり、60cmの距離で見えていた一つの文字 は、距離が近づけば近づくほど欠けていき判読が不能となってくるのである。誤って 自分の視能力に合わない大きい倍率のルーペなどを使用した場合に、線ははっきりし ているが自分の視野に文字が入らず「困った」などというケースを経験なさった人も おられるのではないだろうか?
 B逆に、距離が離れていくと、見える面積は広がっていくが、視力的には反比例 し、60cmの距離では判読できていた文字がぼやけ判読が難しくなっていくのであ る。その代わり視野的には一つの文字しか認識できなかったものが、文字を読むこと はできないまでも、逆にその隣の文字や上下にも文字が存在していることがわかって くるのである。少し離れたところから認識できた看板が、ちょうどその前にきたはず なのに見失ってしまったなんて経験は結構多いのではないだろうか。つまり日常生活 においては、はっきりと認識できずとも、形や色がわかることで認識できることは結 構あるということなのである。

 以上は理論的な記述であるが、以上のことをIMの基本ツールであるギュウニュウ パックの一面をカットしたプレートで実際にやってみると「なるほど」と理解できる のである。例えばその牛乳パックに大きく「低脂肪牛乳」と書いてあったとしよう。
 自らの片腕でこれを持ち、肘を曲げずに自分の正面にセットする。そして目を固定 (固視)して先ほどの「低脂肪牛乳」の文字を見てみよう。その状態で「牛」の文字 だけが視野に入り、明確に判読できたとしよう。これをだんだん手前に近づけると、 「牛」の文字がどんどん近づけば近づくほど欠けていくのがわかると思う。逆にだれ か人にそのプレートを持ってもらい、だんだん自分から離してもらうと、「牛」の隣 の文字である「肪」や「乳」の文字が視野に入ってくるのではないだろうか?但し、 離が離れれば資力的には文字の判読が難しくなってくるので、何という文字かは読め なくなるが、文字数が5つあるとか、その下にぼんやりと牛の絵が書いてあるなんて ものも視野には入ってくる。
 例えば前述より視野が狭い人は、プレートに書いてあるもう少し小さい文字を見て みればよい。文字がはっきりと読めず資力的にぼんやりしていたとしてもそれは構わ ない。逆にもう少し視野が広い人はもっと大きな文字が書いてある牛乳パックのプ レートを探してやってみればいいのである。また、コントラストが強調されている コーヒー牛乳の茶色と黄色の色のものを使うなど、自分が見やすいものを探して利用 することも効果がある。特に他の人に、同じ大きさの文字であっても、白地に赤い文 字より、茶色に黄色の文字のほうが判読しやすいなどの具象的なアピールにも使える わけである。
 話は少しそれるが、晴眼者の人は目が悪いというと、小さい文字より大きい文字の ほうが見やすいだろうと単純に考えるであろう。薄いシャープペンシルで白い紙に大 きく文字を書かれても、私には「白い紙」としか見えない。しかし、文字の大きさは それより少し小さくとも黒いマジックで書いてもらうと判読できたりするのである。 この裏づけの理論を解説したりすると、「やっぱり色変って 変体の一種なんだ」な んて思われるから要注意!しかし、家族や会社の同僚などにこの自分の「見え方」を 認識してもらえば、「○○さんのメモはこのフォント」と認識はしてもらえるわけで ある。こんな「些細なこと」であったにせよ、QOLはかなり向上するのは確かであ る。ただ「大きく書いて」とか「マジックで書いて」では、他の人に「自分の見え 方」は明確には伝わらないのである。
 まとまらない文章で恐縮であるが、少しは「自分の見え方」をできるだけ明確に認 識し、それを基に工夫したり、生かすこと。また、それを他の人に具象的に伝達する ということの大切さが少し理解していただけたとは思う。IMはこれを前提としてな めらかな「見える範囲」の移動や、目だけを移動させ極限の端部で10秒間固視する などの毎日の訓練を行う。その詳細は文章では説明がなかなか難しいので、それはま たの機会にでもお話したいと思う。尚、現在このIMについては、福岡の柳川リハビ リテーション病院、青森の弘前大学医学部のロービジョン外来で指導が受けられる が、地道な本人の努力や、訓練に対する目的が重要であると考える。速読やスポーツ ビジョンとは理論的に異なるのでこれに関しても混同は禁物である。私はこのIMが ロービジョン患者におけるリハビリテーション方法として現時点では最高のレベルに あると確信している。


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