あぁるぴぃ広島 Vol.6


■点字毎日■(2002年8月25日号)

 ◆ルポ最前線を行く◆

 ーー 国際網膜世界会議 ーー
 3日から2日間、千葉市で「第12回国際網膜世界会議」が開かれた。会場には日 本網膜色素変性症協会(JRPS)の会員を中心に多くの患者が参加した。彼らの最 大の関心は、何と言っても最新の治療研究。果してどこまで進んできたのか?そこに 焦点を当てて会議の様子を報告する。

 ーー 確かな未来めざし治療法探る ーー
 主催した「国際網膜協会」(RI 本部:スイス・チューリッヒ)は、網膜色素変 性症、アッシャー症候群、加齢黄斑変性症などの網膜変性疾患を持つ患者と研究者、 支援者の集まり。世界40か国に支部を持つ。
 同協会では、治療法が発見されていないこれらの疾患に対する治療研究を、それぞ れの立場から推進するのを最大の目的にしている。アジア初の開催となった千葉会議 には「EYE ON THE FUTURE 私たちの目に確かな未来を」とのテー マが付けられた。会長のクリスティーナ・ファッサー女史はRI活動について、患者 の立場からも目的達成に向け役割を果す意義を説き、「連帯感」を強調。「医師は私 たちのことをpatient(ペイシェント 患者)と呼ぶが、私たちはimpat ient(インペイシェント あせっている)なのです「と述べたファッサー女史 は、さらに連帯を強めて治療研究を後押ししなくてはならないと訴え、新しい治療法 が試みられる際は率先協力を呼びかけた。

 ーー 道険しい治療法の確立 ーー
 では、治療研究はどこまで進んでいるのか? 結論から言うと、治療法の発見の道 は険しく、前途は未だ遠いといった段階だ。研究者からの報告からは「かもしれな い」というニュアンスのことばが目立ち、明るい見通しを抱かせる発言は少なかっ た。
 浜松医科大学の堀田喜裕教授は、米国のNIH(米国立衛生研究所)に留学した 際、初期の「遺伝子治療」の研究にかかわった経験に基づいて現状を報告した。堀田 氏は、網膜で重要な働きをしている遺伝子に傷が付くと色変になるが、その原因とな る遺伝子が患者それぞれに異なるのが治療をむずかしくする原因だと説明した。
 遺伝子治療については、世界で何千例と行われているが、7割が癌、2割がエイズ の治療で、遺伝性疾患には1割が行われているに過ぎないと言う。網膜変性疾患に応 用されるのはこれからで、「安全」「安定」のふたつの条件が整うまでは「慎重にや る必要がある」という考えを示した。
 一方、京都大学助教授の高橋政代氏は「網膜移植の研究」について報告した。移植 した細胞が失われた細胞の代りに必要な因子を再生する仕組の細胞移植だが、高橋氏 は色変に適した治療法になり得ると自信を示した。1.視細胞だけの変成で、小さな 範囲の治療ですむ 2.進行が徐々に進むため、治療期間が長く取れる ーーなどが 理由で、現在は移植源となるにふさわしい細胞を探している段階だと言う。もっか動 物実験が進められているが、「本当にできるかどうかはやってみないとわからない」 と、こちらも慎重な姿勢を崩さなかった。
 千葉大学眼科教室の溝田淳氏は、疾患の根本的な原因の治療ではなく、その原因に よって発生する神経の障害をなるべく小さくする「神経保護」の研究について報告し た。色変の場合、網膜変性の進行をできるだけ抑える治療で、ビタミンの投与などが 研究テーマになっている。こちらも効果が明確な手段は見い出せておらず、投与法が 容易で、いろいろな病態に効果があり、副作用の少ない方法を探していると言う。
 このほか、米国、ドイツ、日本で研究されている人工網膜の開発事情も報告された が、米国の研究者は「多くの開発結果が客観的とは言えず、主観的な報告である」と 総括し、まだ時間が必要であるとの印象を与えた。

 ーー 今の自分も大切に ーー
 明るい話題もなかったわけではない。ロービジョンへの対応や、視覚障害リハビリ テーションについて、眼科医も関心を深め積極的になっているのがうかがえた。ま た、視覚障害者のIT利用を紹介する分科会や機器展示会は、視覚障害を補う各種機 器の最新事情に触れられるチャンスとなり、参加者に大歓迎されていた。
 「現在の視力を維持できるように補助具などを活用し、今の生活も向上させてくだ さい。」 網膜細胞移植の報告を行った高橋氏は、こう付け加えるのを忘れなかっ た。今の自分も大切にというメッセージは、未来を語る世界会議の場だっただけに、 参加者に少なからずインパクトを与えていたようだ。 (浜井義文)


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