あぁるぴぃ広島 47号


■寄稿

 「第8回 視覚障害者の音楽発表会を訪れて」
     藤村 (エリザベト音楽大学卒業生)

 ある本を読んでいた時、視覚障害者の音楽活動の文章を目にし、初めて「点字楽譜 」というものの存在を知った。
その本の筆者は、視覚に障害をもつ人達の合唱の音源 を聴き、「『目の不自由な人たちが、あんなによく歌う』といったものではなく、音 楽そのものからくる感動であった」と述べていて、大変興味を惹かれた。
大学の授業 の一環で自分の研究するテーマを探している途中ではあったが、点字楽譜と、それ以 上に点字楽譜を利用している視覚障害者の方たちについて知りたいという気持ちが生 まれた。
 点字楽譜についての知識は全く無かったため、まず点字楽譜はどういうものなのか という事から勉強を始めた。
点字楽譜は視覚に障害のある方たちのための、点字で書 かれた楽譜である。点字は、横が2個、縦が3個の6個の点のパターンで出来ているが 、1つの文字を1つの点字で表すように、点字の楽譜も、1つの点字で1つの音符を表 している。
点字楽譜は、左から右に、横一列に表され、音の高低や長さを、譜表上の音符の上下 や形によって図形のように表す五線譜とは全く違った表記法である。
五線の上下に書 かれている強弱記号などは、音符や休符の間に一列に書くことになる。五線譜では、 声楽でも器楽でも、数段を一度に読むか、パート別に読むかは自由だが、点字楽譜は 一度に一つしか読むことが出来ないため、視覚に障害をもつ方が十分に楽譜として使 えるよう特別な配列法が必要となる。
 点字楽譜は、個々の音を知るには優れているが、解読によって一度「ド」は「ド」 、「レ」は「レ」と理解しなければならない。旋律をたどる場合も、一音ずつ動きを 確かめてからでないと、旋律の全体像は理解できない。まして、曲の全体像を理解す るには、かなりの時間と努力を要する。
 これに対し五線譜は、一つ一つの音を読む前に、全体として旋律がどう動いている のかを知ることができる。さらに、曲の頭から最後まで見渡して、楽曲の全体像すら つかむことも出来、個々の音を細部まで読み込み理解する作業も行っていく。
 点字楽譜について資料を中心に勉強していく中で、視覚に障害をもつ方がどのよう に活動されているのか、実際にはどのような演奏をされるのかなど知りたいと思い、 広島で行われる演奏会を探していたところ、広島市心身障害者福祉センターで「第8 回視覚障害者の音楽発表会」(2012年10月14日)が行われることを知った。
 普段は大きめのコンサート会場でクラシックの演奏を聴くことが多いため、様々な 点を比較しながら音楽会を聴いた。私は視覚障害をもつ方との関わりはこれまで全く 無く、勿論視覚障害をもつ方たちの音楽会に訪れるのも初めてのことだったため、演 奏が始まる前の準備の時間でも沢山の気づきがあった。
 まず初めに、演奏者以外だと思われる、発表会の様々な進行のサポートをしている 方が10名程いることに気付いた。演奏会は演奏者以外の沢山の人が影で支えているも のだが、明らかに人数が多いと感じた。視覚障害者の方たちは準備の時間、サポート の方や出演者同士で空気を互いに読み取り合い、当然のことながら目が見えないなが らも指示をするなど、意志を伝えようとしていることが雰囲気で分かった。
 音楽会は、1〜9までのプログラムで、曲目数は40曲程あり、出演者は約50名、来場 者は30〜40名程、いずれも30〜60歳位の年齢層だった。
演奏のみで淡々とプログラムが進んでいくのではなく、司会進行の方による1組ごと の出演者の紹介や、出演者へのインタビューも演奏の間に含まれており、出演者も来 場者に問いかけ話をするなどアットホームな印象を受けた。演奏者・司会の方たちは 声が綺麗ではっきりと話す方が多いと感じたが、視覚に障害をもつ方たちにとって、 人に何かを伝える術として話すことは大きな意味を持つのかもしれないと考えた。
 出演者のほとんどが暗譜で演奏を行っており、演奏内容については、最後のプロの 演奏を除き『もみじ』や『ふるさと』、『涙そうそう』など、歌の曲を楽器で演奏さ れることが多かった。演奏の始め方は、1人が小声でカウントしていたり、伴奏者の 前奏に合わせたり様々な工夫をし、息を揃えていることがうかがえた。音楽会は予定 の時間より前に開始されたが、健常者の主催する演奏会に比べてみると、曲と曲の間 の準備等の進行にかなり時間を要していたためか、予定よりあとの終了時間だった。
 この音楽会を訪れて、特に印象に残ったことが2つある。 
 1つ目は、最初に司会の方が「元気と感動を与えられる音楽会にしたい」と話して いて、本当に元気になれる音楽会だったことだ。東北の震災以来は特に、有名な音楽 家たち、素人やプロ、大小かかわらずどんな演奏会を行う者でも、そのような意識は 持っていると思う。演奏会では様々なことを感じ、感動したり影響を受けたりするが 、演奏自体にしても来場者との雰囲気にしても、こんなに活気のある演奏会は初めて だと思うほど私は感動した。
 2つ目は、音楽会終了後にスタッフの方に声をかけた時のことだ。私が来場した時 に受け取った物とは別に、予備としてプログラムをもう一部頂きたいと思い、受付で 1人の女性に声をかけたところ、その人の手元には無かったようだったのだが、周り の人達もそれに気づき、数名のスタッフの人が探しすぐに私に手渡してくれたのだ。
その迅速な対応と必死な様子で、この音楽会で感じたパワーに納得出来た気がした。
うまく表現出来ないのがはがゆいが、他の演奏会では見られないスタッフの方たちの 熱意を感じる光景だったのだ。
勝手な推測ではあるが、この音楽会に来ていたのは出演者の身内や知り合いの方が多 く、私のような一般の来場者は少数だったと思う。そのような人達に少しでも何かを 伝えたいという、音楽会に関わっているスタッフの方々の思いが、この光景につなが っていたのだと感じた。


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