2.活動報告

※8月28日 白杖講習会
     8月28日に"どうしてますか交流会"、"アイフレンズ"との共催で「白杖講習会」を行いました。ご家族や学生の方々の参加が多かったため、当日急遽予定を変更し、手引きの講習も行いました。
     その講習会に参加していただいた、岡山大学医学部保健学科の学生の方々が、レポートを書かれました。講習内容や当日の様子がよくわかり、またすばらしい感想も書かれていますので、そのレポートをここに掲載させていただきます。
     ただ、かなりの量ですので、申し訳ありませんが抜粋し掲載させていただきます。また、個人名はイニシャルに変えさせていただきました。ご理解のうえご容赦いただきますよう、お願いいたします。

    K.S
     今回、白杖講習会に参加して今まで知らなかったことを知ることができました。手引きについてなど将来役に立つようなことを教えていただき、良い経験ができました。
     はじめに目の不自由な方の手引きについての説明を受けました。「手引き」と聞くと自分が目の見えにくい方を手を引いて連れて行ってあげるというイメージがありましたが、それは誤った考え方でした。手引きを手段と考えるべきで、それは自転車や自動車と同じもの、つまり私自身が自転車を用いて自由に好きなところへ行くように、目の見えにくい方も縛られることなく自由に歩くことができなければいけないのだなと思いました。また連れて行ってあげる、やるという考えでは駄目だと言われました。見えにくい方に主体があるということを常に頭に入れておきたいです。
     また手引きの条件が4つあるそうです。なるほどと思いました。
    1.安全に歩く(これが一番重要)
    2.能率性(曲がり角では90度に曲がるのではなく自然に緩やかなカーブを描いて曲がる)
    3.お互いに自然に歩く
    4.お互いのやりやすさ(見えにくい人が手引き者の右腕をつかむのが基本だが、身長が違っていたら肩を持つなどの工夫をする)
     手引きのポイントも教えていただきました。
    ・ 二人分の幅を取って歩く
    ・ 手引き者は必ず半歩前を歩く
    ・ はじめに見えにくい方の手の甲をたたく
      これは見えにくい方がどこをさわっていいか分からないので基準となるものを提示するためだそうです。私はただ見えにくい方の手を自分からつかめばよいと思っていましたが、それではだめだと分かりました。確かにいきなりつかまれたらびっくりするかもしれないと思います。手の甲をたたかれると安心して手引き者の腕をつかめると思いました。
    ・ 入り口など狭い場所は「狭くなります。」と言って一列になる、映画館などの座席では二人で横歩きをする
    ・ 段差では足を踏み入れる前に停止し、「一段の段差があります」などと声をかけ、手引き者が先にすすむ。手引き者の腕が上下することで段差の高さがどれくらいであるかが伝わる
    ・ 階段も段差と同じように手引きする。最初の角を目の見えにくい方に確認してもらう。
      私は段差の数が分かっていたほうが安心して階段を上り下りできるのではと思っていましたが、段差の数は言わないほうがよいそうです。
    ・電車のホームなどの溝では「溝があります。」と伝え、溝の前で停止する。手引き者から一歩進む。このときに足の置き場所に気をつける。溝ぎりぎりであると目の見えにくい方の足の置き場がなくなるからです。
     実際に手引きをして…私の担当した方は、女性で全く見えない方でした。しかし20年くらい長い間、それで生活しておられるので白杖で外を歩くのも慣れておられました。一人で外を歩いて方向が分からなくなったときは、周りの方に声をかけて尋ねるようにしているそうです。
     私は、手引きについて教えていただいたことに気をつけながら実践してみました。まず、部屋の出入り口では声かけをし、一列になりスムーズに通ることができました。階段もきちんとできました。難しかったのはほんの少ししか高さのない段差です。2cmくらいしかない段差は「段差があります。」というとおおげさすぎるかなと思ったからです。しかし段差を伝えないことでつまずいたりすると危険なので、やはり伝えたほうがいいと思い、「ちょっと高い段差があります。」と言いました。
     そして溝も気をつけなければならない場所だと思いました。溝に落ちてしまっては危険なので、手引き者は注意深くならなければなりません。まずは、本当の溝ではなく金属の溝蓋を溝に見立てて実践しました。私のパートナーの方は白杖を持っておられたので、溝の幅が分かり、スムーズに越えることができました。白杖がなかったら手引きがあったとしても溝を越えるのは、なかなか難しそうだと思いました。白杖は目の見えにくい人にとって、とても大切なものであるのだと思いました。また、溝蓋の穴に白杖が、はまってしまうことがあるそうです。私もヒールのある靴を履いていて、溝の穴にはまってしまったことがあります。そのような時は、つかえてしまい結構びっくりしてしまうし、少し危険です。
     午後からは、白杖講習の見学をしました。階段では、白杖で段の高さを調べるのだと言っておられました。私も実際にやってみましたが、なかなか高さを把握することができず、白杖の使い方は難しいのだなと思いました。そして、皆さんが白杖を使うことに対して、不安な気持ちをなにかしら持っておられることが分かりました。
     私たちはそのような気持ちを少しでも理解し、目の見えない方が安心して歩くことができるような道をつくっていくことが必要だと思いました。

    I.M
    (前略)
     午後からは白杖の講習を受け、外で行われた実技講習を見学した。
     白杖は、出席されていた方のほぼ全員が持っていたが、正しい使い方を習ったことがある方は少なかったらしい。歩行訓練士の数が不足している状況は改善されなければならないと感じた。
     手引きの講習では慣れないことのため緊張してしまい、至らない点も多かったのではないかと思う。階段を昇る時に注意されたように、一緒に歩いている人が視覚障害者だと意識しすぎることなく、お互いが信頼し、コミュニケーションをとれば、手引きもそんなに難しいことではない。今後、視覚障害者の方と関わりを持つことがあるかもしれないが、その時は今回の経験をいかしたいと思う。
     Hさんと親しく話すことができ、手引きの実習もHさんのおかげで、楽しく行うことができた。Hさんとの交流は、この講習で得た大切なもののひとつだ。

    H.Y
    (前略)
     しかし、「手引き」には、お互いの絶対的な信頼関係が必要であることもわかった。目の見えない方は、もう一人の方に全てを任せているのだから、もし「手引き」の際、危険なことが起こってしまうと(段差の踏み外し、小さな溝の見落としなど)目の見えない方の不安を増大させてしまう。そんなことが続いてしまったら「ここはまっすぐ歩いて大丈夫ですよ」と言われても「ほんとに歩いて大丈夫のか」と思ってしまうだろう。それでは「手引き」の意味がなくなる。自分にとって大丈夫なものが他人にとって大丈夫だとは限らない。それは目の見える見えないだけの話ではなく、どのことについても言えることだと思う。看護をする際も同じことであって、どれだけ患者さんの目線で物事を考えられるかが重要である。ただし、患者さんの目線だけになるのではなく、つねに医療人としての目線も忘れないことが大切だと思った。
     今回自杖の会に参加して一番印象的だったのは、はじめにも述べたように参加者の方が明るいことである。やはり、目の見えないことを受け止めていらっしゃる方はみな明るく前向きで、山登りをされたり、料理をしたりなど、健常者よりも広い活動を行っているように思った。その障害に対するポジティブさを健常者はもっと持たければならないし、自分たちだけが便利な世界を望むのではなく、みんなが住みやすいようにすることが大切だと思った。

    Y.A
    (前略)
     また、目が不自由な方で、白杖を持ちたくないという人や白杖で歩く練習をしているのを見られたくないという人が中にはいるようです。白杖を持っているほうが、目の不自由な人だということがすぐに理解できるので、気をつけることや手助けすることができますが、やはり、周囲を気にしたり白杖を持ちたくないということもあったりして、前向きに考えていくのは難しいことなのかなと思いました。
     でも、最後の意見の中に「白杖を持って歩くのは、目が不自由でもさっそうと歩けるようになるためです。」ということを言われた方がいました。私は、この言葉を聞いたとき、すごくカッコイイと思いました。同時に、このような考えが世間に広まって、今よりも体の不自由な人たちが生活しやすい社会になっていくといいなと思いました。
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※9月23日 「世界網膜の日」記念 医療講演会
    ★9月23日の医療講演会に参加して
    F.M 
     世界網膜の日を記念しておこなわれましたこのたびの医療講演会には、たくさんの人達が参加されておられました。
     高橋先生のお話は、テーマは「網膜再生医療の現状と課題」という、なんだか難しそうなお話になるのかなと思っていましたが、私たちによく解るようにお話してくださいました。
    まず、RPのなりたちから進行状態、遺伝の問題など、私たちが 一番気にしていて知りたいと思っている事柄を、順を追って詳しくお話されました。
     先生の、今進めておられる研究のことなど、お話を聞かせて頂いていて、RPの私たちにとって網膜再生という新しい強い光が差し込んできました。ほんとうに嬉しいことです。
    高橋先生と松尾先生との対談では、さらに詳しく研究の内容や、私達の質問にも親身なお答えをいただきました。高橋先生、松尾先生をはじめ、医療や研究に携わってくださっておられます多勢の先生方に、心から感謝いたしております。
     お二人の先生方がお話して下さいましたように、今ある視力を大切に、明るい未来を信じて出来る事を広げていきたいと思っています。
     このようなすばらしい講演会を開いて下さいました役員の方々にも、心から感謝いたします。

    ★「世界網膜の日」記念医療講演会
    失われた視細胞に代わるのは? PART2 講演要旨と感想
      K.M
     今年も岡山県支部最大のイベントである医療講演を行いました。日時は9月23日、場所は岡山国際交流センターです。今年は、網膜再生医療の最先端で研究を続けていらっしゃる、京都大学病院探索医療センターの高橋政代先生に、「網膜再生医療の現状と課題」と題して、講演をしていただきました。講演1時間、質疑応答15分、休憩を挟んで、岡山大学医学部眼科の松尾先生との対談に1時間、この対談の時間の中に、もう一回質疑の時間を設けてくださるなど、徹底して私たちの質問、疑問に答えて下さいました。これから、講演の要約、講演と対談を通じて印象に残ったこと等を書いていきたいと思います。

    高橋先生の講演要旨
     再生医療の講演をするときに、このお話が正しく伝わらず、薬にも毒にもなると感じます。過度な期待も、もっともっと先の話だとがっくり力を落とすのも間違っています。網膜色素変性症という病気を正しく理解してください。これからずっとつきあっていくこの病気のことをよく知ったうえで、お話を聞いていただきたいのです。
     まず、おつきあい初心者の方は、病気のことを正しく知ってください。この病気は網膜が徐々に変性していくものです。人によって目の周辺部から見えにくくなる人もいれば、中央部も見えにくくなる人もいます。網膜の変性する場所によって、一人ひとり見え方が違ってきます。これは原因となる遺伝子がたくさんあり、人によって違うからです。自分の状態を把握してください。
     また、医者が言う言葉と患者さんの理解に隔たりを感じることがあります。医者は視野と矯正視力を問題にしています。「失明」ということにしても、社会的な失明のことで、真っ暗になることではないのです。ましてや、失明イコール何にもできなくなるではありません。また、「遺伝病」というで、不安をお持ちになることがありますが、遺伝病イコール子供に同じ病気が出るということではありません。遺伝病は遺伝子の変異が原因となる病気です。言い換えると遺伝情報のミスコピー、遺伝子の並びがちょっと変わってしまう、ことです。この病気では、たまたま網膜の情報のところに変異があるだけと理解してください。遺伝の仕方によって、優性遺伝と劣性遺伝と伴性遺伝があります。遺伝子診断は東北大学と京都大学ではじまりましたが、20%ほどのことしか判明しません。
     日本で3万人の患者がいるといわれるこの病気は、でも、あわてる必要がない病気とも言えます。おつきあい中級者の方には、治療法として完全なものはまだないことを理解していただきたいと思います。治療法を探すというのではなくて、今の状況でどうするか、またどう準備するかが必要だと思われます。
     5年前くらいから治療法がマスコミにも取り上げられるようになりました。先日のNHKの放送でも、胎児網膜のシートを移植する手術のことが報じられましたが、まだ、手術の安全性を調べるフェーズ1の段階で、何十例のも手術のうち、1例だけで、視力0.025から0.12になったというものでした。お分かりのように、今、0.3とか0.4の人が受けるものではありません。このような手術がはじめて成功したことはすばらしいことだけれど、今すぐ申し込むのは早いです。また、同じ番組の中で胎児をつかうということで、中絶反対のデモの場面もありましたが、倫理的な問題も大きいです。科学的にできるのに、倫理的にはできないというジレンマもあります。
     ですから、そういう問題のない幹細胞から視細胞をつくる研究をやっています。虹彩や毛様体からもつくられています。また、移植しても網膜と神経細胞をつないでいかないと信号が伝わらず、視力は回復しません。神経細胞の再生やシナプスをつないでいくこともやっています。
     特定疾患の申請をできるならばやっていただきたいです。患者さんがどれくらいいるかによって、研究資金が動くこともありますので。
     他の治療法としては、遺伝治療は遺伝子診断がつく人には、進行を止めることができる段階に入っています。人工網膜は機械を埋め込む方法ですが、実用化が進んでいます。これらの治療法で何ができるかというと、過剰な期待も困るし、反対に力をなくすのも問題です。網膜の一層の一部分を直すことから、可能にしていきたいと思います。どのくらい治るのか、やはり、視力1.0になるのはむつかしいでしょう。0.1になるくらいだと考えています。このことから、0.3も0.4もの人がやることではないと思います。では、いつできるか、科学的にできるというのと、社会的、法的にできるというのは違います。これには5年くらいのずれがあると感じています。安全性をみるための手術として、5年先くらいにできるだろうと見通しを立ててやっています。
     私たちは「できると思ってやっている」のです。0.3、0.4で、読めないというのではなく、見えにくいのだと思って、どうしたらいいか工夫しましょう。できないと思ったら何にもできないのですから。みなさんもできると思ってやってください。

    感想
     講演の冒頭、「この講演を聴くのに資格がいる」という言葉に驚きましたが、何度も色々なところで講演を行い、聞き手の反応をよく観察している高橋先生だからこそ言える言葉だということがわかりました。私たちに対して病状の把握を正しくしていますか?また、この網膜色素変性症は、ずっとつきあっていかなければならない病気だけれども、正しくつきあっていますか?という問いかけでもあります。
     先生の元気でかざらない、曇りのない語り口に、引き込まれるようにお話を聞いていました。質疑応答も活発で、いろいろな質問が飛び交い、ひとつひとつに丁寧に答えてくださいました。松尾先生との対談では、お二人の研究者としてのお話、眼科のお医者さんとしてのお話など、いろいろ聞くことができて良かったと思います。遺伝の話とかもう一度、はっきりうかがうことができて、疑問に思っていたことがはっきりしました。
     安全性を確かめるフェーズ1の試験研究であるにしても、あと3年、5年なりの数字が出てくるようになったことは、すごいことだと思いました。まだまだ先は長いと感じられた方もあったと思いますが、着実に研究を進められていく、先生たちの信念の強さに深く心打たれました。

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