3.活動報告 

※9月7日 ヨットセーリング体験に参加して
 報告:ワン吉
     この報告は、愛媛からヨットセーリング体験に参加してくださったワン吉さん(ハンドルネーム)が、西日本メーリングリストに投稿されたものを、許可を得て転載させていただいたものです。

    「風をよめ」
    ・出発、ドアを開けると、其処には大きな・・
     「何処かへ出掛けるんだな」と、トレイス君、ワン吉の周りをうろうろです。ワン吉は「タオル、タオル」「水、水」と、忘れ物が無いようにリュックに詰め込むのに必死です。
    トレイス君は置いていかれると大変と、足元にまとわりついて離れません。踏まれても蹴飛ばされても離れません。「トレイス君、一緒に行くんだから」と、納得させるように言っても駄目ですね。置いて行かれないように必死です。
     7日、日曜日、雨の予報です。が、朝7時の出発時刻になると陽光が差し今日もまずまずの天気になってます。
     JR駅に向かいます。駅では手引きをお願いします、プラットホームで少し待ちます。プラットホームには心地良い風が戦ぐいでいます。列車がホームに滑り込み、車椅子席の在る車両に案内されます。車椅子席は車両の左手一番前の席が一個取り外されて空間を作られて在ります。
     トレイス君が車両に乗り込むと、周りの人が「わー、大きいワンちゃん」と、びっくりです。でもトレイス君がきちっと座って大人しく、いい子ぶりっ子してますので、団体旅行のオバサン達におおもてです。「ハンサムだねー」と、見つめられてます。
     一番前の席ですから、ドアを開けると大きなトレイス君がでんと鎮座ましましてます。「わっ」と、驚いて後に引く人に「大丈夫よ!」とか、「わんちゃんいるからね」「気をつけて」と、管理をして頂けます。

    ・ すみません岡山は遠くありません。
     岡山駅到着です。此処で、急遽できたトレイス君親衛隊のオバサマたちと、「また会いましょー」で、お別れです。
     日曜の朝、四国はまだ静かでしたが、もう、岡山は賑わっております。迎えに出てくれた駅の職員さんに集合場所の中央改札口に連れて行ってもらいます。
     岡山駅は改装されて、とても都会的になったのですが、方向が良く分からなくなってしまってます。集合時間にまだ30分はあるな。と思ったのですが、「何人かの方が集まっていますよ」と、駅員さんが教えてくれます。
     そのグループに近づきますと、聞き覚えのある元気な岡山名物女性Kさんの声が聞こえます。「お早う御座います。トレイス&ワン吉です」とトレイス君と尻尾を振ってごあいさつです。「ワン吉さんいらっしゃい」と、メーリング仲間の歓迎を受けます。「遠いところどうも」と、言われますが、我が家から岡山は近いのです。愛媛から香川を通り、瀬戸の海を超え来た割には、我が県庁松山へ行くよりちょっと近いのであります。
     今日は日本のエーゲ海、牛窓でヨットセーリング体験をさせて頂きます。
     全員集合しましたね。赤穂線ホームへ連なって移動です。「赤穂線ただいま10分遅れの運行です」と、ホームのアナウンスです。ぺちゃくちゃおしゃべりでのんびり待ちます。
     岡山のお姉さん達の足元でくつろいでいたトレイス君、突然、緊張です。「何、何」 

    ・ 浮気な子と視野の狭い我
     「何、なに!」 のんびりしていたトレイス君、突然立ち上がり、くるりと向きを変えて、メンバーさんたちの足の間から隣りのホームに注目です。「あっちになんかあります」と、ワン吉がボランティアの女性に確認してもらいます。
     「あ、盲導犬が!」「隣りのホームに盲導犬が」白いワンピースの女性が盲導犬と立っているようです。「あら!トレイス君って浮気物ね」と、岡山のメンバーさんたちに言われます。「そうですね」、さっきまでメンバーの女性に甘えていたのに、可愛いワンちゃんを見つけると一気に心変わりです。「ワン吉さんと一緒ね」と、「あれー」「おおこわ」こっちにもとばっちりです。
     でも、此処だけの話しですが、怖いオバサンより可愛いオネエサンですよね。
     二両ばかりの列車が来て乗り込みます。それでも空いているので全員座れます。でもなんだか、ガタゴト、ガタゴトよく揺れます。赤穂線は赤穂浪士のたたりがあります。
     隣の席の方に改めてご挨拶です。「メーリングに入ってますか」と、ワン吉が効けば「入ってますけどあまり書き込みしないので」と、「そんなんじゃ、管理人のUさんに除名されますよ」って言ってみますと。「前にUさんいますよ」と、言われて、よーく見ると,「わーっ!」 Uさんが対面に座っています。「こんにちは、お久しぶりです」大きくっても、小さくっても視野に入りません。

    ・ 桟橋を渡って、お、と、とぉ!
     赤穂線邑久駅に到着、此処に"海のバリヤフリー"を合い言葉に活動されている「NPOセーラビリティ・スナメリ」さんのお迎えを受け、ヨットハーバー「牛窓」までのドライブです。
     車の中でヨットやボートの楽しさをお聞きします。フランスの河川や運河に浮かぶボートハウスを羨ましそうに話されます。「海の上はバリアフリーですよ」って、海には段差も横断歩道もないのです。「ブラインドのヨットマンもいますよ」と。
     トレイス君がすくっと立ち上がります。点々と島影に囲まれた、牛窓ヨットハーバーに到着です。何故?ちょっと早目にトレイス君は到着地点が分るのかな。車から降りると、潮の匂いが吹いてます。
     用意された大型テントで説明を受け、22名の参加者が3班に分かれます。先ず、1班、2班はヨットセーリングクルーザーで牛窓湾をクルージングです。3班はアクセスディンギー2人乗り体験です。
     ワン吉&トレイスは2版です。桟橋を渡り、ヨットへ向かいます。手摺の在る桟橋はほんの少しで、手摺が無くなり、1メートルぐらいの幅の桟橋から、よろけると海に落ちてしまいそうな幅の細い桟橋にと渡っていきます。「おっと、とぉ、とー」 桟橋がゆれてます。「トレイス君助けてよー」

    ・ その場の空気もよめないのに・・・
     「ワンちゃんは大丈夫かな」と、言われますが、「アップ」 の声で置いていかれてはなるものか、と、トレイス君はひょいと飛んで上手に乗船です。「おっ!凄い」と、感嘆の声です。
     続いてワン吉達は「どっこいしょ」のよたよたで乗船です。ヨットの甲板にはロープなどがいろいろ在ってつまづきそう。
     このヨットは10名ほどが乗ってもゆったり、港を出るまでエンジンを掛け出航です。「ブルン、ブルン、ブルン」、桟橋を離れて行きます。
     「誰か舵とりしましせんか?」の、声で、Uさんが挑戦です。エンジンを止め、帆を張ります。ワン吉もロープを引っ張って帆を揚げます。大きな三角の帆が揚がって、帆が風を受けパタパタとはためきます。
     「風をよんで!」と、言われます。「えっ 風」 どっちから吹いているのでしょう。前から、右から、左から。「わー、わからんですー」その場の空気もよめないワン吉、気まぐれな風の向きなどよめません。
     ヨットは前からの風を帆に受けその浮力で前に前に進みます。「そ、そうなんです」ずーっと昔、習いました、習いました。

    ・パラリンピックも夢じゃない!
     「キャプテン」と,Uさんは呼ばれて「面舵いっぱい」 です。「はい、風をよんで」と、言われています。「わからんなーぁ」と、首を傾げてばかりです。「ホラー、首筋に当たるでしょう」と、言われUさんは首をのばして、左右に振ってますが、「うーん、わからん」、本当わからんです。
     右と言われれば右に思え、左と言われれば左、美人に吐息をかけられた様にははっきりしません。「あっ!」トレイス君の生くさい吐息を思い出します。突然ふられたトレイス君、「何だよー」って、顔をして潮風にはなをひくひくさせてます。トレイス君なら風をよめるかな。
     「キャプテン右に30度ぐらいきって」と、メンバーさんの指示で舵をきり、ヨットは順調に沖に向かいます。帆いっぱいに風を受けています。かなりスピードが出ています。「上手だ」と、褒められています。「この調子だと四年後のロンドンパラリンピックに出場できる」と、持ち上げられます。
     グループ名の「すなめり」は、瀬戸内のこの辺りまでも回遊してくる小さな鯨の名前だそうです。「へー鯨がね」。「エイも飛んでる時もあるよ」と、教えられます。「見たい!」ですね。

    ・日本のエーゲ海を越えると四国です。
     日ごろの行いが良い人ばかりなので、「今日は絶好の天気です」と、スナメリさんが言ってます。海は凪いでいるのに、風は程よく吹いて、夏のなごりの強い日差しもありません。
     夏は焼けつく太陽が照りつけ、海はベタ凪ぎで、ヨットは進まずそれは過酷なクルージングになるそうです。ほんと、ときおり日差しが戻った時の暑い事、トレイス君も舌を出してへーへー。そして後からの風に変わると、まったく風を感じません。暑いー。またしてもトレイス君ぜーぜー。トレイス君キャビンから水を頂きごく、ごく、コックン。ごきそうさま。
     今日は絶好のクルージング日和です。キャプテンの舵取りも、スナメリさんのナビのもと日本のエーゲ海を巡ります。島影の中に白いヨットの帆が幾本も交差しては離れ行きかっています。島近くにはカヤックの練習も見えます。
     「あれは前島、あちらは犬島」と、島々の紹介も頂きます。「ずーっと行くと小豆島」、そして屋島、「わー、四国に着いちゃいますね」ワン吉たちはこのまま送り届けてもらいましょうか。

    ・エーゲ海を巡って秋の味覚も頂きます。
     日本のエイゲ海をすいすい走るヨットは往年の映画「太陽にいっぱい」を思い出します。キャプテンと呼ばれるUさんはアラン・ドロンになってます。
     海の上はバリアフリーと言われますが、「右手にブイが浮いてます」「左手からはボートが近づいて来ます」「あちらの島近くは岩礁が」と、段差が無くてもいろいろ大変ではあります。
     「はい、右に20度、左に15度」と、ベテランさんの指示なくしては・・果たして無事の航海はあるでしょうか。
     「港に入りますのでエンジンに切り替えます」と、スナメリさんがエンジンをかけます。「えっ!」、我らのヨットは前に前に進んで、四国に近づきつつあるものと思っていましたが、いつの間にか牛窓ヨットハーバーに帰っています。「不思議だなぁ」、何処でユーターンしたのでしょうか???1時間ほどのクルージングは終りです。
     テントに帰ってお昼です。「秋刀魚の蒲焼弁当か、栗ご飯弁当か、どちらにします?」と、用意された秋の味覚を頂きます。トレイス君はKさんから頂いた高原の美味しい水をぴちゃ、ぴちゃ飲みます。

    ・海でニアミス交通事故
     弁当の終わったKさんのお孫さんがわーっとあちらへ駈けていきます。あれっ!今日の岡山県支部は上品でなんだか静かです。誰か来てませんね。誰かな。
     「ワンちゃんは危ないから」と、午後はトレイス君、ボランティアのオネエサンとお留守番。尻尾の振りが気弱になってるとレイス君。嬉しいような、ワン吉が気になるようなです。
     桟橋から、水面すれすれにゆらゆら浮いている小さなヨットに乗り込みます。ぐらっと傾いておっとっと。と、右手に「これが帆を操るロープ」「こっちが舵ね」と、左手にレバーを握らされます。
     「え、えーっ 自分で操縦するんで、す、かー」そんな言葉は無視されて、「はい、帆を右に引っ張って」「舵を左にきって」と、指令です。するとどうでしょうヨットはすいーと岸壁を離れ進み始めます。アクセスディンギー体験の始まりです。
     横に指導者が着いてのセーリングですが、何だか心細いのです。「少しは見えてますか?」と、言われます。「ええ、少しは??」空の白いのとか、大きな島影とかは見えますが、「あ、前にヨットが」と、叫ばれます。こんなに広い海、ワン吉の前に来ないでよぉー

    ・サスペンスドラマの始まりでしょうか・・
     こんな広い海、何で?ワン吉のヨット近くを通過するのでしょう。海にも交通事故はありますよ。
    「右に堤防がみえますか?」と、言ってますが、ワン吉は見えているのか見えてないのかわかりません。堤防を超え、ヨットは湾に出て行きます。午前の大型ヨットのセイリングでは感じなかったのだけど、牛窓湾は広い!今はその広い海も空も風も、潮の香りもワン吉はひとりじめです。ちょっと太平洋ひとりぼっちの気分。
     あっ!午前中は薄日も差していたのに、ワン吉の不安感を煽る様に、辺りが急に暗くなって妙な風が吹き始めます。それでもヨットは調子よく走ります。
     「風をよんで、帆を右に」と、午前中、勉強はしたのですが、「わからん、わからん」で、指示どうりに操作です。「右手を海にかざして見なさい」と、言われ、ボートの外に出してみます。わー、手に痛い激流と水圧を感じます。ぴゅぴゅ、ぴゅぴゅと、波を切ってワン吉のヨットは走っています。
     しかし、青かった海がにわかに黒く盛り上がったように感じられて、空いっぱいに大きな黒い雲が蔽いかぶさり、島影の向こうから雷鳴が轟きはじめます。青かった海は黒く盛り上がって、船を飲み込みそうに思えます。「わーっ」何だかサスペンス映画のワンシーンです。

    ・トレイス君はリゾートファッションを用意したのに・・
     「おーい、何処行くの」と、岸壁から声が掛かります。あれーっ!またまた知らないうちに帰っています。もう、我らの桟橋を通り越してます。ヨットをぐるぐる回して桟橋に着けようと思うのですが、あせって、とうとう逆向きで接岸です。
     いい子でお留守番でしたよ!のトレイス君の尻尾ブンブンの歓迎を受けワン吉の初航海からの無事帰還です。
    ますます雲行きが怪しくなって、あたりは真っ暗。ゲリラ豪雨が来るか、突風が吹くか、雷が落ちるか、テントは大騒ぎ。我らはヨットハーバーの事務所へ避難です。ゴロゴロの雷様だったのが、激しく光って「ガラーン、ドシャン」の一撃があります。その地響きで、ものに動じないトレイス君も一瞬、立ち上がって、お目目ぱちくりです。
     牛窓に、日本のエーゲ海と言われるに相応しい、オリーブ公園やとても素敵なリゾートホテルがあります。もしかしてそこでお茶タイムでもあるかと、トレイス君はネイビーブルーで碇の模様がプリントされたマリンルックを用意してきました。スナメリさんに、「そこは湾の向こう側だな」と、教えられます。美味しいアイスクリームもあるそうです。「残念だねトレイス君」 今日は立ち寄れません。
     「なーんだ」、って感じで、我らが頭上の真っ黒い雲は、大きな雷鳴を3個ほど轟かせただけで、ゲリラ豪雨も突風も無く通り過ぎて行きます。

    ・瀬戸は日暮れて・・・
     肩透かしの雷鳴でしたが、ハーバーは何となく夏が終わっていくような、嵐が去った後のような寂しさが漂って、我らのヨット体験も終わります。まとわりついた潮気が軽い疲れで残ります。
     後片付けもせず、全て海のバリヤフリー"を合い言葉に活動されている「NPOセーラビリティ・スナメリ」サンにお世話になって、そしてその上、帰りも邑久駅まで車で送っていただきます。まことにもってありがたい事です。
     邑久駅のホームで列車を待っていると、またまた空が黒い雲におおわれ、俄かに雨がザーット降ってきます。風が起こりプラットホームに雨が吹き込んできます。我らは急いで行動が出来ないので、後ろ向きになって雨に耐えます。
     岡山駅で解散です。ワン吉は駅の介助を得て四国線に乗り換えです。お願いして海側に座らせて頂きます。昼間、ヨットを走らせた瀬戸内が日暮れていきます。楽しい思い出と、心地良い疲れで、トレイス君と無言で眠ります。
     「あっ!トレイス君が居る」と、可愛い声がします。帰りの列車は「アンパンマン電車」沢山のこどもが乗っています。「ワンちゃん、可愛いね」と、トレイス君は人気者、車窓の外は暗くなって到着です。

     岡山県支部の皆さんお世話に成りました。長々と書いてしまいました。最後まで読んでいただきありがとうございました。ワン