9月23日 医療講演会 講演録
 ※テーマ:網膜色素変性症について(治療法研究の現況を含めて)
 ※講 師:岡山大学大学院医歯学総合研究科 眼科学助教授 松尾 俊彦 氏
★掲載にあたり、実際にお話しされた内容を一部変更してあります。ご了承ください。

 御紹介いただきましてありがとうございました。岡山大学病院,眼科の松尾と申します。今日は,こういう患者さんの会で話す機会をいただいて,とてもありがたいと思っています。通常,我々医師はよくスライド等を使って話すことが多いのですが,今日はあえてそういうものは使わずに,みなさんのお顔を見ながら話して,質問があればその都度どうぞ手をあげて聞いてください。
 どういう話をしようかと会の世話をなさっている奥村さんと何回か相談しました。やはり,現在の状態と将来のこと,今後治療法に関してどういうものがでてきているかということについても,多少話が難しくなるかもしれませんが,そういう話があった方が良いというご要望がありましたので,だいたい1時間位話をして,あと質問をお受けして、皆さまとゆっくり話をしたいと思います。
 最初に患者さんが外来にいらっしゃったときにどういうお話しをしているかをここであらためてお話しして,それからあとの方で研究の話になりますが,私自身していることもあれば,していないこともありますが,研究について30分位ゆっくり話したいと思います。これから10年,20年のうちには必ず,今日お話しする治療法の研究の中で,実際に使えるようになるというのがでてくると思います。そういう話をするつもりです。何回も言いますが,わからなかったらその都度手をあげて質問してください。話すのが速すぎるとか,その言葉はわからないとか,もっと詳しく説明しろとか,どうぞ遠慮なくおっしゃってください。その方が,私としても話しやすいので。話の腰を折っていただいた方が助かるので、ぜひお願いします。
 網膜色素変性症という言葉はたいへん難しい言葉で,私たちの外来にいらっしゃる方は,まったくそういう言葉を聞いたことがなくて,たまたま網膜色素変性症であるとわかる場合もありますし,ご家族の方に網膜色素変性症があって,自分もそうではないかと考えられて病院の方へ来られる方もいらっしゃるし,それから,他の病院で網膜色素変性症という診断を受けたんだけど本当にそうなんだろうか,もしそうだとすれば今後の見通しやどういう治療法があるか,どんなことに気をつけていったら良いかということを知りたいということで病院に来られる方、様々です。
 まず,来られたら,視力を測って,視野は通常すぐ測れないんですが,診察室へ来られます。その前に,いろいろ話を伺いまして,場合によっては家族歴のようなことも診察室に来られる前にこちらが把握する場合もあります。目の診察をして,眼底を診て,わかりやすい場合は網膜色素変性症とわかるのですが,その他,網膜色素変性症にすごく似ている病気もあるんですね。網膜色素変性症というのは,今の定義では,原因がわからなくて遺伝性がある,先天性ともいいますが,だんだん視野が狭くなる,最終的には,場合によっては,視力がおちることもある。あと,夜盲といいまして,普通正常ですと,暗いところに入るとすぐには見えないのですが,だんだん目が慣れてきて,そこに物がある,人がいるというのがわかってきます。そういうのを,目が慣れる,むつかしいことばでは,暗順応。暗順応が悪い状態を夜盲と呼んでいますが,夜盲がある,そういう病気です。ですから,そういうのが(夜盲が)あるかどうかというのを聞いて,それから眼底を診て,やっぱり網膜色素変性症かなと思って,それから他に似たような病気ですよね,他の原因,例えば,場合によっては,長いこと薬を飲んでいたりとか,それから今はかなり希になりましたが,先天梅毒。これは,御高齢の方,70歳,80歳の方は梅毒というのはけっこう頻度が高くて,時々いらっしゃいますけど,そういうのがないかどうか。もし梅毒であれば,他に例えば,角膜の混濁があるかどうか,角膜というのは黒目の表面の透明なところを角膜といいますが,そういう角膜に異状がないかとか,そういうのを診ていきます。二次的な原因であれば,あるかどうかというのをまず診て,そういうのがなければ,なくて,しかも家族歴があれば,家族歴はじつはない場合も多いのですが,網膜色素変性症という診断をしています。必要があれば,たいてい眼底を診て話を伺うだけで,それから他の原因となる病気ですよね,そういう二次的なものがないかどうか,ということがなければ,網膜色素変性症と診断することができます。ただ,わかりにくい,とても眼底が初期というか,子どもの頃ですね,網膜色素変性症というのは,おそらく,生まれたときから変化はあって,ただ変化が軽いのでわかりにくいんですよね。眼底を診ていても,一見きれいに見える場合もあります。そういう場合に,本当にそうなのかというのを診断するために,いろいろ検査をします。さらに,検査をすることがあります。
 検査としては,いちばん有名なのは,網膜電図といって,光を当てたときに当然網膜は反応するわけですから,その反応を電気の信号として記録する方法です。簡単にいうと,目の上に電極が付いたコンタクトレンズを当てておいて,光を当てて,それから電極の反応を記録して,痛い検査ではありませんが,波形が出るかどうかを調べます。あと,蛍光眼底造影,これもむつかしいことばですけれど,網膜の血管の造影法というのも行います。この場合,眼底を診ただけではわからないような,眼底を診ただけではわからないような非常に細かな変化,軽い変化があった場合も,造影検査をしてみると,網膜自体が傷んでいるということがわかる場合があります。そういう検査をして,まず網膜色素変性症かどうかを診断していきます。
 ちょっとここまでむつかしかったかもしれませんが,ここは,たいてい患者さんがいらっしゃって,頭の中でぶつぶつ考えながら,それから,色素変性症であると確信がもてますと,それから,患者さんにいろいろ説明をしていくわけです。それを,今日この場で繰り返した方が良いんじゃないかと思いまして。
 まず,こちらが確認するのは,家族歴を確認します。ご家族の中にいらっしゃるかどうか。これも日本の中で希になりましたが,近親婚ですね。昔は,いとこ結婚というのがすごく多くて,最近はほとんどなくなってきましたけど,いとこ結婚があるか,家族歴があるか,家系を詳しく聞いて,カルテに家系図を書いていきます。いとこ結婚がある方もいらっしゃれば,まったくそういうのがなくて,家族の中に色素変性症や夜盲の方がまったくいらっしゃらない方もいらっしゃいます。いま,日本でどれくらいの比率かというと,家族歴がある方は,実はあまり多くないですね。聞いてみて,確か半分くらいだと思います。
 それから,あと劣性遺伝というのがありますが,これは,いとこ結婚等がある場合に出てくることが多いのですが,劣性遺伝が25パーセントくらいで,あと優性遺伝の方が10パーセントくらいで,残りは個発例といって,家族歴がまったくない方が半分くらいですね。昔は,劣性遺伝の色素変性症,要するにいとこ結婚か何かがあって運悪く出てきたという方が4,50パーセントいらっしゃったんですが,いまはむしろ減ってきています。家族の中に,いらっしゃらないという方がけっこういらっしゃいます。そういうことをまず聞いていきます。
 最初に,「網膜色素変性症です」というのは,ぼく自身もたいへん勇気がいるというか,とくにはじめての方はとても勇気がいるというか,気が重いというか,どう患者さんが受け止められるかということがすごく気になりますが,「網膜色素変性症です」というお話をして,それから,紹介とか他の病院でそう言われていろいろ勉強してこられた方の場合は,「やはりそうですか」とおっしゃいます。
 次に見通しについてお話しします。今,どれくらい見える範囲が残っているか,だいたい進行すると10度くらいしか,普通、人間の見える範囲は60度から80度くらいは見えるわけですが,上下左右,最終的には10度,軽い方で30度くらいしか残っていないことが多いですね。若い方の場合は,段々歳をとるにしたがって見える範囲が少しずつ,急には狭くならいのですが,少しずつ狭くなる,ということをお話しします。それから,最初に病院にいらっしゃった時点では,視力が良い方が比較的多いんですね。なかには,視力が落ちた方もいらっしゃいますが、視力は比較的保たれる,最後まで落ちないということをお話しします。
 特に若い方の場合は当然仕事をされていますし,どんな仕事でも視力はとても大切なものです。その時の状態を診て,5,60歳までは大丈夫だろうというお話しをします。それから,あと暗い所で見えにくいです。普通の人は目が慣れてくるのが,慣れてこない,そういう状態があるということを感じたことがありますかとか,子どもの頃気付いたことがありますかということを聞いてみます。子どもの頃からそういうことを気づいていたとおっしゃる方もいれば,あまり気にならなかったとおっしゃる方もいます。
 あと,見える範囲が狭いということに気が付いている場合もあれば,気が付いていない場合もあります。見える範囲がとても狭いので,今,社会がとても忙しいので,車の運転とかいろんな所へ行ったり,行動しなきゃならない。視野が正常であれば,横から来た場合なんとなくわかるが,そういうことがわからないんですよね。自分は人より視野が狭くて,横から何かが来た場合わからないということを意識して,これは自分の身を守るためですが,そういうことで事故に遭わないように意識をされている方は,こちらからくどくど言う必要はないんですが,気が付かれていない方もいらっしゃるので,普通だと横目で見れば見えますが,そうじゃない場合は,車を運転する場合確実に首を振って確認するようにと,あえて言う必要はないかもしれませんが,そういう注意点をお話しします。事故に遭わないように。暗い所でわかりにくい,これは,程度が個人によって違うと思いますが,普通の人だったら,大勢の人で暗い所に急に入ったとしますよね。そういう場面でも目が慣れてこないので,やはりちょっと急に暗い所に入ると危ないという,そういう時に気を付けるように、自分はそうなんだとちゃんと意識をして,身を守るようにということをお話ししています。
 ちょっと眠たくなりましたね。何か質問はありませんか,このあたりで。患者さんにはじめてお会いした時の話はまだ終りじゃなくて,次は,今の治療について話します。
治療法としては,昔から言われていることですが,強い光は避けるようにと。昔から,おそらく100年以上前から眼科医の間で言われていることなんですが,強い光をできるだけ避けて,とくに夏の強い日差しですよね。室内の光はそんなに問題ないのですが,夏の戸外の強い光は避けるように,ということをお話しします。サングラス,あまり濃いものを使う必要はありませんが,サングラスを使った方が網膜としては長持ちがするだろうというお話しをします。
 薬については,これも昔からもう何十年も前から言われてきていますが,ビタミン剤ですね。いちばん多いのは,ビタミン剤をずっと補給していくというのがあります。それについても話をします。ご希望があればビタミン剤を飲まれたら良いし,とくにご希望がなければどちらでも良いというお話をします。というのは,昔からこういうのが良いと言われて,もう何十年もビタミン剤の処方や飲んでいくというのがされていますが,それがどのくらい効果があるのかというと,わからないんですね。わからないということは,効果があるかもしれないし,ないかもしれませんね。でも,効果がないという根拠もないですね。効果があるという根拠も,実はないですね。経験的に良いだろうということで,昔からずっと出されているんですね。その他の薬としては,血のめぐりを良くする薬ですね。網膜の機能が,通常の方より残っているところが少ないので,残っている機能を少しでも長持ちさせるように、あるいは,残っている機能が,ある機能があって,それが少しでも発揮するように,血のめぐりを良くすれば良いんじゃないかという,これは,すごくわかりやすい考えなんですが,そういう考えに基づいて血のめぐりを良くする薬が昔から出されています。この薬の効果についても,じつのところよくわかりません。
 今,いろんな薬で問題になっていることですが,薬の効果があるのかないのかというのが,昔ですね,おそらく30年前にこの薬は効果があると言われた基準といまこの薬は効果があるという基準が変わってきているんですね。世の中の流れとして,おそらく,医療費がすごく乏しくなったからじゃないかと思うんですが,それから,科学が,効果と効果があることかどうかということを検証する方法ですよね,方法という考え方が進歩したのかもしれませんけど,薬の効果についてもっと厳密に考えようというのが,この数年,10年くらい出てきまして,病気の治療も色素変性症だけじゃなくて,いろんな病気もそうなんですが,治療が,例えば薬を出す治療,あるいは手術をする治療,例えば,手術方法もいろんな手術方法がありますよね。治療するときに,どっちが効果があるのか,あるいは,それは本当に効果があるのかどうかということをもう少し厳密に考えていこうというのが,いまの医療の流れです。そうした中で,いままで経験的に,網膜色素変性症ではビタミン剤とか,血流を良くする薬,それからあと,ATP製剤という,そういうのもありますが,一般名はアダプチノールと呼ばれてますけど,そういう薬をいままで出してきてますけど,そういう薬が本当に効果があるのかどうか,というのは実はわからないですね。効果はあるかもしれないし,効果はないかもしれないです。ただ,効果があるという明確ないまの基準に従った根拠もないし,効果がないよという根拠もないですね。ただ,長いこと出している薬ですから,少なくとも害,要するに,副作用というか,そういうものはないようです。そういうことをお話して,ご希望があれば,ビタミン剤ですね。ビタミンも,ビタミンAやらDやらいろんなものが効くという話があって,総合的に考えれば,総合ビタミン剤を薬局で買って,あるいは,病院で出してもらって,実は病院にいらっしゃって診察受けて出してもらうよりは,今,薬局で買った方が安い場合がありますから,総合ビタミン剤を飲んでいくというご希望があればそうされたら良いというのを話をしています。
 それで,治療の話をして,見通しですよね。見通しは,さっきお話しましたよね。今後どうなるか。じつは,見通しも本当にそうなのかと言われるとわからないのですが,ぼくがその時眼底を診て,このくらいの年齢でこのくらい残っていて,例えば,ご家族の中で同じような病気の方がいらっしゃる場合,その方がだいたい何歳くらいで見えなくなったかという情報があれば,それを参考に,例えば,家族の中でおじいちゃんが同じような色素変性症で,見える範囲が狭くて夜は見えなかったけど,60,70までちゃんと見えていて新聞も読めていたという情報があったとしますよね。そういう場合だと同じように,その方が30歳だとすると,十分その頃までもつだろうという話はします。ただ,一概に言えないんですね。色素変性症は,進行するというのが定義に入ってますけど,どのくらいの速さで進行するのかわからないですね。わからないので,いらっしゃった時の年齢とその時の眼底の状態を診て,この歳でこのくらい残っていたら,このくらいもつだろうなという感じでお話しているのが現状です。
 できるだけ,ぼくの考えとしては,例えば仕事をされている方が多いんで,仕事を続けたいという場合は,できる限り仕事を続けてほしいというのが私の希望ですので,たぶん大丈夫ですよというふうにお話をしています。見通しについては,そういう話ですね。
 そこまでが病気の話で,それから後は社会的保障と言ったら良いか,そういうお話をします。具体的には,身体障害者を申請するかどうかですね。視力が,視野がどのくらい残っているかを診て,たいていの方は最初にいらっしゃった時に,視力,あの身体障害者はぼくは説明する必要はないと思うんですが,視覚,見え方の身体障害者というのが,みなさんご存知のようにありまして,視力と視野,見える範囲で決まっています。視力で該当する場合というのは,あまりないんですが,視野がかなり狭くて,視野が狭いから身体障害者に該当する場合というのが,最初にいらっしゃった時からあります。
 そういう場合,身体障害者の申請をどうするかという話を,次にします。これが,じつは大きな問題でして,理屈の上から言えば,困っているからそういう身体障害者という制度があって,これは憲法に保障されている権利ですよね,われわれの。できるだけ保障していこうという趣旨なんですが,実際問題,例えば,仕事をしている方の場合,身体障害者を申請するということは,会社に勤めているとすると,全部そういうところに明らかになりますよね。それが,こういうことを言うのは何なんですが,良いのか悪いのかというということをよくお考えになって,した方が良いというお話をしています。というのは,本来こういう状態で,視力がこれくらいあって,視野が狭いから身体障害者。で,それで,仕事は業務上問題ないと思うんですが,必ずしもそういうふうに考えてくれない所が世の中にあると思うんですね。ですから,身体障害者を申請するか,申請せずにいくか,どうされるかはご本人でよく考えてしてくださいというお話をしています。申請をなさる場合は,こちらはいつでも診断書を書きますからということを話します。必ずしも,身体障害者の申請をすぐするのが良いのか,あるいはもうちょっと経ってからした方が良いのかというのは,その人の人生の中でよくお考えになってというのを,ぼくがこんなことを言うのは何なんですが,話をしております。
 それから,あと,社会保障の面で,特定疾患というのがあるんですね。これは,一般には難病というふうに呼ばれていますが,きちんとした言葉では,特定疾患と呼んでいます。これは,ずっと病院に長いこと,治らない,治らないと言ったら変なんですけど,要するに,病院にかからないといけない病気なので,医療費の自己負担分が,3割負担ですが,すごくかかるので,少なくともそれを軽減しよう,できるだけ負担を軽くしよう,という目的で,要するにずっと病院にかかっていかなければならない,必ずしも治らないということではないと思うんですが,そういう負担が大変だから,眼科の領域で言えば,ベイチェット病とかいろんな病気がありますけど,そういう病気の場合,特定疾患ということで指定して,申請すれば,自己負担を,いま全額ではないんですが,部分的に補助,要するに個人が負担せずに済むようにという制度があります。これも,特定疾患を申請すれば,受給者証は必ず出ますし,そういうことで,それが良いのか悪いのかというのは,悪いかという問題じゃなくて,それをされるかどうかというのを話しております。特定疾患の申請をされる場合には,診断書を書きますので,ということを話しております。
 外来にいらっしゃる時,そこまで,たぶん2,30分くらいはいくら速くしゃべってもかかると思うんですが,そういうお話をしています。あと,定期的にどの程度で診ていったら良いのかというのが,これはいろんな意見があると思うんですが,さっきお話ししたように,急激にどんどん悪くなっていく病気ではないです。ですから,1年に,まあ,1か月に1回でも構わないんですが,例えば,1年に1回視力を診て,視野検査をして,どれくらい視力が残っているかどうか,それから,視野ですね,見える範囲が1年前と比べてあまり狭くなっていないかどうか,というのを確認していくと,すごく安心ですよね。こちらも安心だし,ご本人も安心だと思うんですが,そういうことがるので,1年に1回くらいは,最低眼科にいらっしゃって,視力検査と視野検査,それから他に病気が出ていないかどうか,ですね。で,他の病気が出ていないかどうかというのは,そこまでは診察の時にはお話ししないんですが,時間がないので。例えば,どんなことが考えられるかと言うと,だんだん歳をとっていくと,まず白内障ですね。白内障は,網膜色素変性症の方の場合は,おそらく通常よりちょっと早く出てくると思います。白内障が出てきますと,網膜色素変性症で見えにくいのに,さらに白内障で見えにくいというのが重なってきますよね。そうなった場合,網膜色素変性症が進んで見えにくくなったんじゃないかという心配が出てきますよね。実はそうじゃなくて,網膜色素変性症自体は進行していないんですが,白内障が出てきて,それで視力がおちちている場合というのがあります。これは,意外と多いんですね。白内障の場合は,白内障の手術をすれば,白内障はなくなりますからね,白内障で見えないというのはなくなります。そういうことがないかどうか。とくに,若いうちですよね。30代,4040代はあまりないと思うんですが,40歳くらいになるとちょっと起こってくる方もいらっしゃいますけど,5,60歳,70歳になると出てきますけど,そのくらいの年齢の場合は,白内障が出てきているかどうかというのは,たぶん,自分でそういうのを知っていた方が良いと思うんですよね。そうすると,白内障が出てきて見えないということがわかれば,網膜色素変性症は進んでいないということになりますから,その分すごく安心ですよね。 それから,白内障の手術に関しても,基本的にはすごく安全なんです。網膜色素変性症があるから,普通の何にも病気のない人と比べて白内障の手術がやりにくいんじゃないか,あるいは,白内障の手術がうまくいかない確率が高いんじゃないか,ということを言われたり,誰かから聞かれた方が時々いらっしゃるみたいです。でも,実際はそういうことはありません。白内障の手術は,基本的にとても安全にできます。ただ,唯一,白内障の手術をしてみて違うと思うのは,白内障の手術をどういうふうにしているかということから説明しますと,白内障というのは,ちょっと話がとびますけど,目の中にレンズがあるわけですね,透明なレンズがあります。目の中のレンズというのは,昔の太鼓みたいに紐で吊るされているんですね。そのレンズが濁るのを白内障といいます。通常の,いま一般的に行われている白内障の手術というのは,レンズを吊るしている袋ですよね。外側の袋を残して,中の濁りだけを超音波吸引という方法で濁りを全部取ってしまって,残した袋は透明なんですね。残した袋の中に眼内レンズ,これは人工の水晶体ですが,プラスチックでできた眼内レンズというのを残した袋の中に固定しています。こういう手術方法は,基本的に安全に,網膜色素変性症があってもできます。ただ,ちょっと普通の方と違うなという点は,残した袋は最初は透明なんですね。ですから,全然問題ないんですが,残した袋が濁ってくることがあります。これは,とくに若い人ですね。若い人の場合は,多いんですね。網膜色素変性症の方は,残した袋が濁ってくる率が普通の方より多いし,手術をしてから早い時期に残した袋が濁ってきます。これはどうしてか,ぼくも原因がよくわからないんですが,残した袋が濁ってくるのを,難しいことばで,後発白内障,後で発生する白内障というふうに言うんですが,後発白内障と呼びます。これは,後発白内障が起こったとしても,いまはレーザーで残した袋に穴を開ける方法があります。これは外来で簡単にできます。ですから,後発白内障が起こる率や時期は,普通の何もない方に比べて,やはり早いし,頻度としては高いんですが,起こったとしても,処置する方法はレーザーで穴を開ければまた見えるようになりますし,いっぺん穴を開ければもう濁ることはありませんから,そういう心配はないと思います。白内障の手術というのは,とても安全にできるし,とくに歳をとって普通の方より早く白内障が出てきた場合,その白内障の手術をするのが普通の方に比べて危険とか,そういうことはまったくありませんので。そういう,網膜色素変性症以外の理由で見えなくなっていることはないかどうか,白内障みたいに,というのを定期的に眼科にかかられて診てもらうのは意味があると思います。
 それから,あとあまり見たことがないのですが,緑内障ですよね。見たことがないというのは,網膜色素変性症の方で緑内障をいっしょに起こされた方をぼく自身あまり見たことがないんですが,ただ,可能性としてはありますよね。緑内障という病気は,簡単にいえば目の中の圧力,眼圧と呼びますが,眼圧が上がって眼球の中の神経の一番弱い所を圧迫して,神経がちょっとずつ死んで,これも見える範囲が狭くなっていく病気なんですが,緑内障は歳をとればとるほど起こりやすくなるんですよね。緑内障は,日本で40歳以上の人の場合は,5パーセントくらいの方が緑内障なんですが,例えば,70歳80歳になりますと,10パーセントから14パーセントくらい,そのくらいの頻度の方が緑内障になります。ですから,網膜色素変性症の方もなる可能性は当然あるわけです。緑内障は,目薬を使って眼圧を下げて,それ以上進まないようにするという治療をしてますから,色素変性症があってさらにそういうことがあったらかなわないので,そういうふうな他の目の病気がないかどうかというのを診て,できるだけ,残っている視野,視力を大切にしていくということを考えていきましょうね,ということをお話ししています。
 それから,あとの病気としては,これもあんまりないんですが,色素変性症の方は中心は残ってますよね。中心の網膜というのは残っています。ただ,中心の網膜が色素変性症の影響で腫れるということが希にあるんですね。中心の網膜のことを黄斑と呼びますが,黄色いという字に斑点の斑という字を書いて,黄斑が腫れる病気,黄斑浮腫,浮くという字に腫れると書くんですが,黄斑浮腫が網膜色素変性症の場合,普通よりは起こりやすい。ぼくもあんまり診たことはないんですけどね。そんなに起こらないんだと思いますが,黄斑浮腫が起こったとしても,治療する方法はありますから。
 こういうふうに,白内障,緑内障,白内障はよく起こりますけど,それから他の病気ですよね。そういうことが起こって,いま残っている視野や視力がさらに悪くなるのは困りますから,そうならないように,気を付けていきましょうということを説明しています。
以上がだいたい半分くらいで,患者さんがいらっしゃった時にどういう話をするかという話なんですが,何か質問ございませんか。

■質問は省略させていただきます。

 後半のお話の項目だけをあげますと,さっき一部言いましたけど,要するに全部の神経がやられているわけじゃないですよね。病院にいらっしゃった時,あるいは気が付いた時,普通の状態よりは神経細胞がたくさん死んでますが,残っている神経細胞,視細胞が当然あるんですね。残っている視細胞をこれ以上減らさないようにする治療法が,さっき言った血のめぐりをよくするのも一つの方法です。もうちょっと積極的,もっと効果がある薬が出てくると思います。具体的に言うと,神経栄養因子というんですが,神経栄養因子とか神経成長因子とか,そういうことばでいわれているタンパク質があります。体の中には神経細胞があって,神経細胞は生きているというよりは,生かされているんですよね。脳や網膜の神経細胞は,神経栄養因子とか神経成長因子というタンパク質を受け取って,生きて機能しているわけなんです。そういう神経栄養因子とか神経成長因子を使って,残っている神経細胞をこれ以上死ないようにする,進行させないようにするというのが一つの方法です。
 30代,40代の時は視野も最低10度はあって,視力は1.5で,良いわけですよね。この状態は,確かに視野は狭いですが,この状態が70,80歳まで続けば,それはそれで困らないわけですから,残っている神経細胞,視細胞がこれ以上死ないようにするというのが,たぶん実現がいちばん早い治療法だと思います。
 それをするためには,タンパク質製剤というのがあって,神経栄養因子とか神経成長因子と同じような働きをする薬を探せば良いわけですね。そういう研究は進んでいます。これは,脳の方で,さっきの方のように脳梗塞。脳梗塞というのは,血管が詰まって,脳の神経細胞が死ぬわけですが,その神経細胞が死なないようにする治療を考えていかなければならない。そういう研究が,網膜色素変性症にも必ず使えるようになると思います。たぶん10年,20年のうちには,いちばん早い治療としては,残っている視細胞を一生もたせるようにする治療法が考えられます。
 あと三つの治療法が考えられます。その一つは遺伝子治療という方法です。二つめは,移植または再生ということばで呼んでますけどね。視細胞,光を感じる細胞がだめになった場合は,それに代わる細胞を移植すれば良いじゃないかというのが移植ですね。再生というのは,神経がだめになったのなら,残っている神経から視細胞を再生させれば良いじゃないかというのが再生という考えです。三つめは,人工網膜といいまして,光を電気の信号に換えるのが視細胞ですから,そこを人工のものにさせたら良いじゃないか,光を電気に換えるのは,光ダイオードと呼ばれていますが,そういうものを小型化して,目の中に埋め込んで,光を電気に換えて,その電気が残った神経細胞を刺激して,それが脳に伝われば見えるんではないか,というのが人工網膜という考え方です。
 具体的に移植について簡単に説明していきますと,視細胞だけを移植するのはとてもむつかしいです。だから,網膜を移植して,網膜をどこに移植するかということですが,網膜の表面に置くか網膜の裏側に置くかしか移植する場所はないんですが,そこに移植するという方法が,いまもう試されています。例えば,インドやスエーデンで,これは良いかどうかは別にして,胎児の網膜,例えば流産したとか,そういう子どもの網膜を取ってきて,網膜色素変性症の方に移植する。具体的にどこに移植するかというと,網膜と網膜色素上皮というのがありますが,網膜は神経細胞が層になっていまして,いちばん外側,眼球の中側じゃなくて,眼球の中側でも外側の方にあるのが視細胞なんです。視細胞を支えているのが網膜色素上皮という細胞があります。網膜色素上皮と視細胞,網膜の間というのは,剥がれやすいですね。そこが剥がれるのが網膜剥離という病気ですが,そこが剥がれやすいんで,そこを人工的に剥がして,そこに胎児の網膜を移植した,という報告が出ています。
 効果については,じつはあまりないんですね。視力が果たして良くなったかどうかについては,結果的にみてあまり効いていないなというのが印象です。それはどうしてかというと,網膜を移植するだけではだめで,移植した網膜には光を感じる視細胞があるんですが,移植した網膜が自分の網膜に繋がらないといけないですね,神経細胞どうしが。それではじめて,網膜に映った像が脳に伝わるわけです。そこが繋がるというのがまだ,どうしたらそれが繋がりやすくできるかどうか,考えていかないといけないですね。
 そこには,神経成長因子とか,神経ができるときのことを考えれば,それが参考になるんですよね。もともと神経というのは細胞がばらばらで,それがだんだん連絡していって,脳ができたり網膜ができたりしているわけです。そういうのから勉強して,そういう神経ができるときには,どういうタンパク質が働いて神経ができているかというがわかれば,そこで働いているタンパクを使うことができるんですね。移植をしたという事実は,スエーデンやインドでありますが,効かない。効かないのはなぜかというと,神経どうしの繋がりができないので,繋がりができるようなタンパク質をそこに加えてあげれば,繋がりますね。繋がれば,見えるようになります。そういうところをもうちょっと考えていかなければならないというのがいまの段階です。
 あと,移植するものとして,さっきは胎児の網膜というお話をしましたが,なかなか手に入らないですね。使える網膜がないので,使える網膜を作ろうという考えがありまして,どこから作るのがいちばん簡単かと考えると,やはりさっきの自分の体ができるときのことが参考になるんですね。人間の体って,動物も植物もすべて外ですけど,受精卵ですよね。一つの細胞がどんどん分裂して増えて,いろんな細胞に分化して。例えば,骨の細胞になったりとか,神経や筋肉の細胞になったり,胃になったり,胃の粘膜になったり,いろんな細胞になっていくわけですね。もともとは一つの細胞から分かれて,分化というんですが,特別な細胞になっていっているわけです。
 考え方としては,おおもとの細胞から網膜を作れば良いんじゃないか,そうすれば胎児から網膜をもらってこなくても良いんじゃないか,という考え方があって,そうした細胞をどのようにしたら網膜になるかという研究がいま進められています。そういうもとになる細胞を幹細胞,幹という字を書いて,新幹線の幹ですね。もとになる細胞に何か刺激を与えると,それはタンパク質かもしれないし,違った条件を与えると,ある場合は骨になる。骨になったら,それは例えば,骨の移植ですよね。例えば,骨に骨肉腫が起こって,そこを切り取らなければいけない時に,人工骨を使うことは,いまもう実用化されてますけど,その代わりに,例えば幹細胞から作った骨を使うとか,同じような考え方で,そういうもとになる細胞からうまいこと味付けをして,網膜のもとになるものを作って,それを移植すれば,胎児から網膜をもらわなくても良いという研究が進んでいます。
 これも,どのようにしたら網膜になるかはまだ完全にはわかっていないです。移植しても,自分の網膜と繋がらないといけないし,自分の網膜の中にそういう細胞が入っていけばいちばん良いんですけどね。こういう治療には,視細胞,光を感じる細胞を作っておいて,それを移植するという方法と視細胞のもとになる神経細胞を網膜の中に移植して,網膜の組織に注射かなんかして入れておけば,その場でその細胞が分化して,その場で視細胞になるという二つの方法が考えられる。どっちが手っ取り早いかというと,試験官の中で幹細胞から網膜の細胞をつくってから移植した方が,おそらく制御しやすいと考えられています。
 再生という方法について説明します。網膜色素変性症は,網膜のすべての細胞が死ぬわけじゃないです。で,最初に死ぬのは視細胞,光を感じる細胞がまずやられて,視細胞が死ぬと,それと繋がっている細胞が順番に死んでいくわけですよね。だから,色素変性症といっても,網膜の中には神経細胞がたくさん残っているんですね。残っている神経細胞をうまく導いて,また視細胞を作りだそうというのが再生という治療法の考え方です。この方が,移植よりはむつかしいかもしれないですけど,これも網膜がどのようにしてできているか,おなかの中で,受精卵から胎児がずーっと連なっていきますけど,最初網膜というのはできていないですね。網膜は,細胞が一列の層なんですね。細胞がどんどんどんどん増えて,分裂といいますけど,それから,次は分化というんですが,特別な細胞になっていくんですね。光を感じる視細胞とかね。視細胞に繋がって,次の細胞に情報を伝える細胞とか,脳にまでいく細胞というふうに,同じ網膜の神経細胞でも,いろんな種類の細胞にわかれていくんですね。そういうのがどのようにして起こっているかというのは,どういう時期にどういう細胞が出てくるかはわかっていますが,細胞が分裂したり,分化するのに,どういうタンパク質が関与しているか,あるいはどういう遺伝子が働いてそういうふうになっているかというのは,わかっていないですね。そこがもしわかってくると,たぶん10年,20年経つと今後わかってきますから,そこに関与しているタンパク質を,例えば目の中に注入するわけです。そうすると,残っている神経細胞がそのタンパク質に反応して,いままで分裂しなかったものが,分裂して増えて,さらに別のタンパク質を注入すると,その細胞が今度は視細胞に分化するという可能性はあるんですね。それが再生という治療。これは,移植よりはたいへんですが,可能性としてはあります。
 網膜がどのようにして,おなかの中でできているのかということを研究していかないとわからないというか,具体的には使えない治療法です。それが移植と再生の話です。
 あと,遺伝子治療。ことばとしては,とてもよく皆さんも聞かれていると思います。網膜色素変性症というのは,150個くらいの遺伝子が原因として見つかっています。おそらく,全部で300以上あるいようにいわれています。だから,同じようにわれわれが眼底を診て,まったく同じような網膜色素変性症であっても,その原因の遺伝子は,個人個人によって違うわけですね。同じ,岡山県,岡山市に住んでいる方でも,違う遺伝子が原因となって起こっているわけですね。その遺伝子が原因になっているかというのをまず探さなければならないんですが,見つかっているものが150あって,見つかっていないものをいれれば,300,400,500はあるわけですね。
 遺伝子治療をしようとすると,まず,原因となる遺伝子を見つけないといけないですね。いま,まだ見つけている最中なんですね。自分はどの遺伝子,どのタンパク質の働きがちょっと普通の方と違ってて色素変性症がおこるのかを調べてほしい,と言って来られたとしますよね。でも,実際それを探すのは大変なことなんですね。とりあえず150個はわかってるから,とりあえず家族歴を聞いて,優生遺伝としますよね。優性遺伝だと比較的数が限られてくるんですけど,日本に多いのは劣性遺伝ですね。劣性遺伝とか,子どもの数が減ってるから,劣性遺伝なんだけど,個発例といって家族歴が全然なくて,ぽっと出てるようなそういう方がいちばん多いので,そういう方の場合原因遺伝子は何かというのを調べていこうとすると,わかっている遺伝子を順番に調べていかないといけないですね。途中で,どれか異状が出てくれば,あ,この遺伝子が原因でしたというのがわかるんですが,それをやる手間は大変だし,それをやっても原因がわからないかもしれないです。
 まず,どういう遺伝子が原因かが簡単にわかる方法をつくらなければならない,というのがいまの現状です。いまわかっている150の遺伝子を簡単に血液を調べて,どこに異状があるかを探す簡単なうまい方法はないかどうか,というのを工夫しようとして努力している最中です。
もし,そういう方法が出てきて,「じゃ,あなたの場合はこの遺伝子のこのあたりがおかしくなっているからこういうふうになっているんですよ」というのがわかったとしますよね。わかった場合に,遺伝子治療ができる可能性が出てくるんですね。
話がややこしくなりますけど,どうしてそういう遺伝子が悪くて網膜色素変性症になっているかというと,簡単に言えば二つあるんです。
 一つは,そういうタンパク質ができない。本来は,そういうタンパク質,そういう遺伝子が働いて,遺伝子からタンパク質ができて,タンパク質は体の中で働いているわけですよね。そういう本来必要なタンパク質ができないから色素変性症になっている場合,そういう場合は,その遺伝子を入れてあげれば良いわけですよね。例えば,目の中に注射をして,そういう遺伝子を目の中に入れて,遺伝子が残っている神経細胞に入りますよね。神経細胞の中に取り込まれて,そこでタンパク質を作って,いままでなかったタンパク質ができだしたら,少なくともそれ以上進行することはないですよね。
 もう一つの場合は,遺伝子が変わって,タンパク質のアミノ酸が一つ別のアミノ酸に変わってしまって,変なタンパク質ができている場合があるんですね。本来こういう働きをするタンパクなんだけど,全然言うことを聞いてくれないものがどんどんどんどん網膜にできていて,それがじゃましている場合があるわけです。
 そういう場合は,変なタンパク質ができるような遺伝子が働かないようにしないといけないですよね。さっきと逆なんです。さっきは,遺伝子がおかしくてタンパク質ができない場合,本来必要なタンパク質ができるように遺伝子を入れれば良いわけです。これとは逆に,普通とは機能が変わったタンパク質ができてて,そのタンパク質があるために,網膜全体がきちんと良いように動かない場合があります。そういう場合は,そういうタンパク質ができないようにしないといけないですね。だから,遺伝子治療といっても二通りあるんですね。
犬なんかにも,色素変性症を起こす家系といっては変ですが,あるんですね。そういう犬に遺伝子治療するとか,そういうネズミのおかしくなった遺伝子を補うように遺伝子治療したら,そのネズミは良くなったというか,それ以上悪くならずに済んだとか,そういう研究は進んでいます。
 具体的には,可能性はすごくあると思います。ただ,最初の話に戻りますが,個人個人で色素変性症の原因となる遺伝子は違うわけですよね。ですから,それをまず,探さないといけないですね。探すにはどうしたら良いかをいま考えているのが現状です。
ですから,遺伝子治療よりは,さっき言った神経保護や移植の方が話としてはかんたんというか,普遍的と言うんですけどね,原因が何であれ使えますよね。そういう治療法の方が先にできてくると思います。
 ただ,遺伝子治療の中にも普遍的なもの,みんなに使えるものがあって,神経成長因子を目の中に入れると,視細胞はこれ以上死ななくても済むという,これはまだ証拠はないんですけど,完全な。もし,確固たる証拠があって確実に効くよというのがわかってて,じゃ神経成長因子を1ヶ月に一度注射をすれば良いとなったとします。効果がわかっても,一ヶ月に一度注射をしなければならないという問題がありますよね。一ヶ月に一度注射するのは大変だから,遺伝子を導入して,神経成長因子の遺伝子を目の中に入れておけば,一生ずっと,一年や二年はずっとそこで,神経成長因子を作り続けて,網膜の神経細胞が死なないようにできるという遺伝子治療も考えられます。
 だから,個々の原因の遺伝子がおかしいのを何とかするという遺伝子治療と遺伝子でタンパクのもとになる遺伝子を目の中に入れておいて,目の中でそのタンパクをどんどんどんどんそのタンパクを作ってくれれば,一ヶ月に一度タンパクを注射しなくても済むわけですから,そういう方法は可能ですし,比較的早く出てくると思います。どうしてかと言うと,それはみんなに使えるからなんです。原因が何であれ,多くの方に使える治療が,良いか悪いかは別として,わかりやすいですね。
 そこまでが遺伝子治療で,最後は人工網膜。視細胞は,光を電気信号に変えて,それが細胞膜の電位の変化として,他の神経細胞に伝わって,それが脳まで行くわけですね。最初に視細胞,光を電気に換えるところがだめになっているから,じゃ光を電気に換えるものは,光ダイオードというのがあるんじゃないですか,ということになるんですね。光ダイオードをたくさん集めて小型化して,円盤みたいなのを作って,それを網膜の裏側,網膜と網膜色素上皮細胞の間,本来視細胞があるところに移植したらうまくいくんじゃない,という考え方です。これもされてまして,アメリカで光ダイオードをたくさん集めた円盤を作って,網膜色素変性症で全く見えない方に移植したというのが二年くらい前にされまして,効果についてはいまみんながすごく期待して待っているとこなんですけど,灯しか見えなかったのに,何となくわかるようになったというビデオを研究している人たちが見せてくれました。これは,ぼくはびっくりしたんですけど,可能性としてはすごくあると思います。
 再生や移植の場合は,神経細胞を繋いだりとか分化させたり分裂させたりという複雑なことをいろんなものを加えてやっていかなきゃいけないのでたいへんなんですが,人工網膜というのは,光を電気に換えるものを置いて,残っている神経細胞に電気信号が伝わって,脳へ行く道は残っていますから,脳まで神経細胞がざーっと行けば,見えるわけですよね。人工物を使うのは早い方法ではあります。
 ぼく自身いちばん良いなと思うのは,個人の意見ですけれど,人工網膜だけじゃなくて,人工網膜と何かを組み合わせれば,すべてを再生や移植に頼ろうとすると大変なんで,人工網膜と例えばあと何か,いま残っている神経細胞を死なないようにする神経保護を組み合わせてすれば,少なくとも,まったく見えなかった人がものの形がわかるようにできるとか,いま視力が良くて視野が10度残っている40歳の方が予想だと60歳で視力がおちてくるかもしれないという予想なんですが,そうならないように60歳になっても70歳になってもいまの10度の視野のままで良いから,あるいは視力を維持できるようにできる方法というのは,そんなに複雑じゃないと思うんですね。そういう方法が,おそらく10年くらいしたらできるようになっていると思います。
 10度の視野を普通の方と同じように60度,70度に戻すのはちょっとむつかしいと思いますが,残った10度の視野を保つ方法はできると思います。灯しかわからない方が,何かものの形が,人の顔はよくわからないんだけれども,目鼻立ちはよくわからないけど,そこに何か人がいて,そこに茶わんや食卓があって。それくらいの視力を人工網膜を使って取り戻すことはできると思います。
 そういうのが,いまのぼくの印象というか目標というか,考えです。そういうのをめざして,すべての研究をしているわけじゃありませんが,できる研究をしているのが現状です。

■質問は省略させていただきます。

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