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●ハンター症候群とハーラー症候群


匿名希望

ハンター症候群(Hunter syndrome)は、1917年にHunterが最初に記載し、ハーラー(フルラー)症候群(Hurler syndrome)は1919年にHurlerが、はじめて報告した。どちらも遺伝性ムコ多糖代謝異常で、MPS(mucopolysaccharidosis=ムコ多糖症)と呼ばれている病気のグループに分類されているか、またはMPSである。現在、MPS はMPS-VとMPS-VIIIを除く、MPS I、MPS II、MPS III、MPS IV、MPS VI、MPS VII、MPS IXの7種類の別個の臨床のタイプと多くの亜型のムコ多糖症が識別されている。ハンター症候群とハーラー症候群に関係のあるMPSUとMPSTは、さらに、MPSTがMPS I H、MPS I S、MPS I H-S の3つに分類されており、MPS I Hがハーラー症候群(Hurler syndrome)、MPS I Sがシャイエ症候群(Scheie syndrome)、MPS I H-Sがハーラー・シャイエ症候群(Hurler-Scheie syndrome)である。その中にあって、MPS I H(ハーラー症候群)がもっとも重症型である。ハーラー・シャイエ症候群は、ハーラー症候群より厳しくなく、シャイエ症候群より厳しい症状を結合しているがMPS I についてはハーラー症候群のみ解説する。MPSUはMPS II Aの非常に厳しいハンター症候群とMPS II Bの比較的穏やかなハンター症候群の二つに分類されている。なお、MPS-VとMPS-VIIIはどのような疾患のためにも現在、使われていない。

※1972年に、McKusickらは、ハーラー症候群がMPS I H、MPS I S(シャイエ症候群)と呼ばれるかも知れないことを提案したという報告がある。

MPS I Hのハーラー症候群は、デルマタン硫酸とヘパラン硫酸の分解に必要なα-L-イズロニダーゼの欠損によって起こる。または、α-L-イズロニダーゼをエンコードしている遺伝子の突然変異によって、起こされる遺伝性疾患である。結果として、デルマタン硫酸とヘパラン硫酸が増進し、体内のシステムに重い疾患をもたらしている。症状は、そのデルマタン硫酸とヘパラン硫酸が危険レベルに達したときに発症する。早い時期で生後6ヶ月から発症し、およそ12歳までにハーラー症候群を持ったこどもは呼吸合併症(呼吸困難)、心不全などで死亡する。臨床徴候は、角膜混濁が共通に見られ、粗野な顔貌、精神遅滞、ヘルニア(最初の徴候)、脊柱側弯症、関節硬直、多発異骨症、肝脾腫大症を伴い、心筋症など心臓病は共通して見られる。また、緑内障、慢性的な鼻炎、呼吸器感染症、慢性的な聴力損失(耳感染という表現がある)などの報告がある。また、頭骨が大きく、首は短く、身長も高いとは言えない。MPS I HはMPS の中でももっとも厳しいタイプとして知られ、遺伝形式は常染色体性劣性遺伝形式である。MPS I Hの発症頻度はすべての人種と男女に影響すると言われ、100,000人あたり、約1人である。胎児がハーラー症候群を持っているか出生前の診断として、培養された羊水細胞と絨毛膜(じゅうもうまく)検査(サンプリング)で可能という(海外の文献の)報告がある。

 ハンター症候群またはムコ多糖症タイプU(MPSU)は、先天的なイズロン酸2・スルファターゼ(iduronate2-sulfatase)欠損を持った疾患である。(結果として、コンドロイチン硫酸Bと硫酸ヘパリチンの尿排出を生じている)臨床徴候は、MPS Iに類似しているが、角膜は通常、明瞭であり、粗野な顔貌、低身長(小人症)、精神遅滞、肝脾腫大症、脈管内膜、難聴、心臓血管疾患、骨形成不全がみられる。臨床的にMPS II AとMPS II Bの2タイプが認められ、生後は通常正常で、発症年齢は2〜4歳である。軽症型(MPS II B)は高齢患者の報告もあることから50歳以上生存する可能性があるが、重症型(MPS II A)は進歩的な精神遅滞、身体障害、聴力損失を伴い、15歳くらいまでに死亡する。遺伝形式は、ムコ多糖症のなかでは唯一、X染色体劣性遺伝形式をとるが、まれに女児にも発症する。ハンター症候群におけるIDS遺伝子の点変異(突然変異)が最近、識別されている。MPSUの発症頻度は150,000人あたり、約1人である。

※MPS I H、MPSUは、ハーラー症候群、ハンター症候群以外にも(文献によっては)別名が幾つかある。例えば、MPSUにはイズロン酸スルファターゼ欠損症(iduronate sulfatase deficiencyまたはiduronate 2-sulfatase deficiency)、X 連鎖性ハーラー症候群(X-linked Hurler syndrome)という別名があり、そのほかにも存在する。また、ハーラー症候群は時々、リソソーム蓄積症と呼ばれることがある。(補足すると、ムコ多糖症はリソソーム蓄積症に分類される。)

※Hurler syndromeはフルラー症候群とも訳すが、わが国ではハーラー症候群の訳が多い。IDSは“iduronate-2-sulfatase”の遺伝子記号(ただし、immune deficiency syndrome(免疫不全症候群)の訳もある。)

※MPS I H、MPSUにおける変異した遺伝子が染色体上に位置する遺伝子座は、それぞれ、4p16.3、Xq28である。

■参考文献
Hurler syndrome: Encyclopedia of Genetic Disorders
#607014 HURLER SYNDROME
+309900 MUCOPOLYSACCHARIDOSIS TYPE II
(そのほか、多数参照)
■参考データ
※サーチ件数(サーチ日 2006/11/20)
"Hunter syndrome"約 90,400件
"Hurler syndrome"約90,400件
(サーチ結果は検索エンジンおよび、時間帯により異なる)

※Charles A. Hunter(1873-1955)スコットランド医師

※Gertrud Hurler(1889-1965)ドイツの女性の小児科医

※Victor A. McKusick:1921年生まれの米国医学遺伝学者(関連性⇔OMIM(TM))

(2006/11/21 記載)


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